中国 覇権への躓き

2020年9月1日

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高口康太 (たかぐち・こうた)

ジャーナリスト

1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国・南開大学に留学後、ジャーナリストとして活動。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版)等多数。千葉大学客員准教授を兼務

 なぜ、TSMCはそれほどまでの地位を得たのか。台湾の電子機器産業に詳しいアジア経済研究所地域研究センターの川上桃子センター長は「製造設備、EDAツール(電子設計自動化)、IP(知的財産)、設計など半導体産業の重要なポジションは今でも米国が抑えています。半導体技術の進展に伴い、TSMCが担う製造工程は莫大な設備投資が必要な分野となり、少数のプレイヤーに寡占されていきました。この過程で圧倒的な存在感を示すようになりました」と話す。

 TSMCの強みは規模、最先端製造技術、設計サポートの三点に集約できる。さらに性能と省電力化の鍵を握る微細化でも他社をリードしているうえに、強力な開発サポート体制を構築している。元エルピーダメモリ社長で現在は中国・清華紫光集団傘下・IDTの坂本幸雄社長は「ファーウェイ、ハイシリコンほどの技術者を抱えた企業であっても、TSMCの設計環境を活用することで、より効率的な開発ができ、きわめて重要だ」と指摘する。

 この三つの強みを持つファウンドリはTSMC以外には存在しない。かろうじて代替の可能性があるのはサムスンだが、スマートフォンで競合関係にあり、かつ米国との関係を考えれば、ファーウェイに協力することは難しい。

ファーウェイは窮地を
どう乗り越えるのか

 この窮地をファーウェイはどのようにして乗り越えようとしているのか。スマートフォンに関しては独自SoCによる差別化という武器は失われてしまうとはいえ、台湾メディアテック、またはクアルコム製の汎用品を採用することが可能だ。むしろ困難なのは5G携帯基地局のコアチップだ。製造企業ごとにコアチップはまったく別物なだけに汎用品は存在しない。「TIANGANG」は最先端の7nm(ナノメートル)プロセスで製造されているため、全量をTSMCが量産しているとみられる。

TSMCはファーウェイの5G基地局コアチップ・「TIANGANG」の製造も担っているようだ (AP/AFLO)

 ファーウェイが必要とする量を製造できるファウンドリがもし見つかったとしても、再設計は不可避となる。最悪の場合は基地局の設計そのものをやり直す必要がある。ファーウェイとはいえ、自動的に中国国内の受注が与えられるわけではない。国内でのZTE、大唐電信科技との競争は激しい。基地局コアチップが再設計に伴い品質を落とせば、シェアを落としかねない。

 もっともファーウェイは昨年から制裁に備えて在庫を備蓄しており、短期的には供給に大きな問題はないとみられる。さらにTSMCも9月14日まではファーウェイへの出荷が可能で、この間に大量の駆け込み納品があることは間違いない。その在庫量は1年分にも達すると噂されており、この間に解決策を探ることになりそうだ。

 米国の制裁にファーウェイが大きな痛手を負ったことは間違いないが、中長期的に見れば軍配はどちらに上がるかわからない。「トランプ大統領のおかげで、全部自分でやるという覚悟ができた」と話す中国人経営者もいると漏れ伝わってくる。また、将来的に中国がTSMCのような能力を持った企業を立ち上げる可能性もゼロではない。米国がファーウェイのアキレス腱を抑えたのは間違いないが、今後はどうなるのか。米中対立の行方から目が離せない。

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◆Wedge2020年9月号より

 

 

 
 
 
 
 
 
 

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