2026年3月22日(日)

オトナの教養 週末の一冊

2026年3月22日

 「奇跡のバックホーム」といえば、脳腫瘍のため28歳で亡くなり、昨年映画化もされた元阪神タイガースの横田慎太郎選手の物語を思い浮かべる読者が多いかとは思うが、高校野球では今から30年前、夏の甲子園決勝戦で松山商業の矢野勝嗣選手が熊本工のサヨナラ勝ちを阻止したプレーが「奇跡のバックホーム」として時代を超えて語り継がれている。

(bee32/gettyimages)

 同点の延長十回裏、1死満塁のピンチで右翼への飛球を捕り、本塁へダイレクト送球し、三塁走者を刺して併殺でピンチを救った。準レギュラーの矢野選手は、そのプレーの直前、守備固めで右翼に入ったばかりだった。好返球は奇跡的な監督采配が生んだプレーでもあった。

 矢野選手の好返球はどんな練習を積んで生まれたのか、また松山商の澤田勝彦監督はどんなひらめきがあってサヨナラ負けの大ピンチに控えの矢野を右翼に起用したのか。30年前の夏、大観衆がかたずをのんで見守る中で誕生した奇跡の舞台裏を解きほぐしたのが『日本一のボール拾いになれ』(元永知宏著)である。

 書店の棚に並んだ背表紙のうち、目を引く書名で手にしてみたのだが、すでに伝説となったプレーについて、関係者への丁寧な取材で背景を描き出した。野球の世界一を決めるワールド・ベースボール・クラッシック(WBC)がベネズエラの初優勝で幕を閉じ、きょう19日に選抜高校野球大会(センバツ)が開幕した。球春の到来を契機に読み直してみたい一冊だ。

語り継がれる好守備

 プレーを再現してみよう。現在は休刊となった週刊朝日の第80回全国高校野球選手権記念大会増刊号の記事「本誌が選んだ名勝負ベスト10」で、1996年の第78回大会決勝戦のプレーを紹介している。

 「平成8年の第78回大会では、27年ぶり5回目の優勝を狙う松山商は初優勝を狙う熊本工と決勝戦で激突した。3-3の同点で迎えた十回裏、先頭打者に二塁打を打たれた松山商の新田投手がマウンドを渡部に譲り、ライトに入る。走者がバントで三塁に送られると、松山商は満塁策を選んだ。三番の本多を迎えたところで再び松山商ベンチが動き、新田に代え、肩が強い矢野をライトに投入する。本多が初球をライトに打ち上げると、代わったばかりの矢野が背走、振り向いたところで打球をキャッチ。矢野の送球はノーバウンドで捕手のミットに収まった。そして十一回表、スクイズで勝ち越し、松山商が優勝を決めた」(同号126頁)


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