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2020年8月25日

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角 潤一 (すみ・じゅんいち)

在イラン日本国大使館 一等書記官

イラン・ペルシャ語専門の現役外交官。1998年外務省入省。ロンドン大学アジア・アフリカ研究学院で中近東学の修士号を取得。外務本省でイランやエネルギー安全保障等を担当し、イラン、イラク、アフガニスタン、ニューヨーク(国連代表部)で勤務。19年10月から現職。

「嘘つきに死を!」

 イラン・ザリーフ外相に強烈なヤジが飛び、演説はたびたび中断した。7月5日に開かれた国会での外交方針説明での出来事だ。特に槍玉にあげられたのが中国との関係だった。

中国との「協力計画」への国会の反応は……       (REUTERS/AFLO)

 発端は、6月21日にロウハニ大統領が閣議で承認した、中国との間の25年間に及ぶ包括的な協力に関する計画だった。この計画について国内外のメディアは、イランは中国から4000億ドル(約43兆円)相当の投資を受ける見返りとして、ペルシャ湾に浮かぶキーシュ島を25年間リースする、イラン産原油を割引価格で売却する、中国施設を警備する目的で中国人民解放軍5000人がイランに駐屯することを許可するなどが合意に含まれると報じたのだ。

 「国民には何も知らされていない!」とアフマディネジャド前大統領が噛みつき、国民の間でも、「25年間も中国に隷属するのか?」、「新たな植民地政策である中国の一帯一路計画にイランが飲み込まれてしまう」といった懸念の声が上がった。

 このようにイラン国民が反発する心の奥底には、西側へのあこがれとコンプレックス、その一方で自らもアジアに属しながら東方世界を下に見る傾向がある。筆者はこれまでイラン・ペルシャ語専門の外交官として彼らと交流し、分析してきたが、彼らは、地域の大国として世界に認められ、西側諸国と対等に向き合いたいと強く渇望している。

 一方、この中国との長期計画は、ハメネイ最高指導者と革命防衛隊からの支持を得ているようだ。ハメネイ師は早速国会に対して、政府に対する侮辱や敵対は許されないと釘を刺し、イランは今、国内で一体となる必要があると訴えた。

国難の時期にあるイラン

 元来「アメリカはもとより欧州諸国は信用できない」というのはハメネイ師の常套句であり、またイランにおいて「LOOK EAST」(東方政策)は目新しいものではない。

 2005年にEU3(英仏独)との核交渉が暗礁に乗り上げたときには、ラリジャニ国家安全保障最高評議会書記(当時の核交渉責任者)が交渉を有利に進める策として提唱し、中国との関係強化に動いている。

 そして、イラン核合意(包括的共同作業計画、JCPOA)が行き詰まりを見せた18年10月、ハメネイ師は、西側諸国に留学経験のある知識層に対して「西ではなく、発展を遂げようとしている東を見るべき」と説き、その東方志向を端的に示している。今や「経済マフィア」とも呼ばれる革命防衛隊にとっても、中国との接近によってもたらされる港湾、道路、鉄道などの国内インフラの整備は、自らの利益につながると考えているのだろう。

 では、なぜ、今、このような長期計画が浮上したのか? それは、イランを取り巻く国際的な、そして国内の状況が厳しいことに起因する。米国との対立激化、米国によるソレイマニ司令官の暗殺、形骸化するイラン核合意、制裁で疲弊した経済に追い打ちをかける新型コロナウイルス「第二波」の襲来、イスラエルなどの関与が噂される国内での不審な爆発事案の続発など、イランは今、イスラム革命以降、最大の国難の時期にあると言っても過言ではない。

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