9月3日付のフォーリン・ポリシーに、ニューヨーク大学国際協力センター非常勤研究員で同誌の定期的寄稿者でもあるジェームス・トラウブが、バイデン米大統領候補が中国に対決する政策を打ち出しているが、中国との冷戦は望んでいないとの趣旨の論説を書いている。
トランプ大統領は、バイデン民主党大統領候補が中国にソフトで、バイデンが大統領になれば米国は中国に飲み込まれてしまうと述べ、バイデンの中国政策を批判してきたが、その批判は当たらない。バイデンの中国政策は、トランプに劣らず強硬である。
2020年の民主党綱領は、外交のアジア・太平洋部門のほぼすべてを中国にあて、経済、安全保障、人権の面で中国に全面的に対決すると述べている。
今や米国では世論が中国に極めて批判的で、議会も超党派で中国批判を強めている。バイデンの中国政策もこのような事情を背景としている。
バイデンの中国政策をトランプのそれと比べて目立つのは、1)中国の香港政策、ウイグル人の扱いを人権の面から強く批判していること、2)対中国政策で同盟国との結束を重視していることである。トランプが西側諸国の同盟関係を重くみていないのに対し、バイデンは「自由世界」の団結を重視している。
バイデンは人権と同盟重視の組み合わせで、人権問題で同盟国に中国に対し厳しい政策をとることを求めるものと思われる。日本も香港及びウイグル人の扱いの問題で中国にどう対処すべきかにつき十分検討しておく必要がある。
トラウブの論説は、バイデンは中国に対し強硬な態度で臨むが、中国との冷戦は望んでいないと述べているが、これはバイデンが気候変動や感染症で中国と協力する用意があることを念頭に置いてのことと思われる。同じく民主党のオバマも気候変動問題で中国の協力を強く望んだ。中国に強硬に対処するが協力できるところは協力するという姿勢である。しかし、中国を「不倶戴天の敵」とみなす一方で、部分的にせよ協力ができるのか疑問である。
論説は、バイデンが中国との冷戦は望んでいないという一方で、バイデンの対中強硬策は瀬戸際外交の真の危険を招くと警鐘を鳴らしている。バイデンの政策が瀬戸際外交の真の危険を招くかどうかは、一つには中国の反応にかかっている。しかし中国は米国に対し一歩も譲らない姿勢を示している。
冷戦が熱戦になる危険性は、偶発的な対決は別にすれば、台湾ではないだろうか。習近平は、トランプ政権の台湾支援策にいら立ちを強めており、中国は軍機や軍艦艇を台湾周辺の空海域に進出させ、軍事訓練を活発化させている。これに対し米国は電子偵察機や哨戒機による情報収集活動を行うほかに、5月には米空軍新鋭のB-1B爆撃機2機が台湾北東空域を飛行した。これらは直接軍事衝突につながるものではないにせよ、潜在的危険は常にある。
トランプは中国に厳しく当たることを大統領選挙の一つの売りにしようと考えていた節がある。しかしバイデンが中国に対し同様に強硬な態度で臨むことを明らかにしている。対中政策は大統領選挙の1つのイシューになっているのだろう。
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