今回のテーマは、「バイデンとハリスは党大会で何を語るか?」です。11月の米大統領選挙において政権奪還を目指す野党民主党は、8月17日から4日間の日程で全国党大会を開催しました。ただ、新型コロナウイルスの影響を受けて、大半のイベントはインターネットを通じて行われるという極めて異例の党大会です。
ジョー・バイデン前副大統領とカマラ・ハリス上院議員は、正副大統領候補指名受諾演説で一体何を語るのでしょうか。本稿ではバイデン・ハリス両氏の人間性に焦点を当てます。
バイデン陣営のフォーカスグループ
バイデン陣営は民主党全国党大会の前に、ネット上でバイデン支持者の中からフォーカスグループに参加する者を募集しました。筆者はそのフォーカスグループのメンバーになり、電子メールを通じて同陣営から送られてきた質問に回答しました。
第1問目の質問は、党大会で語ってもらいたい争点に関してでした。20の争点から3つ選択します。筆者は「コロナと公共健康」「コロナ禍の経済」及び「人種問題」を選び、自由記述欄に「米中貿易、知的財産窃盗、スパイ活動、南シナ海」と書いてバイデン陣営に送り返しました。
バイデン氏が指名受諾演説で筆者のリクエストに応えてくれるのかは分かりませんが、この調査結果は多かれ少なかれ演説の内容に影響を与えるでしょう。
バイデンの「人間らしさ」
民主党の大統領候補指名受諾演説で、バイデン前副大統領は2015年に脳腫瘍で亡くなった長男のボー氏について言及する可能性があります。ボー氏は東部デラウェア州の司法長官で、バイデン氏は彼を後継者として考えていたフシがあります。その後継者を失ったのです。
バイデン氏はボー氏との会話や出来事をストーリー(物語り)に仕立てて紹介するでしょう。バイデン氏とハリス氏を結びつけたのは、実はボー氏でした。
ドナルド・トランプ大統領は8月15日、弟のロバート氏が死去したと発表しました。驚いたことに、バイデン氏は翌16日、自身のツイッターでトランプ大統領に向かって「大統領、ジル(夫人)と私はあなたの弟が亡くなったことを悲しく思っています。私は愛する人を失うことの苦痛を知っています。私はこのような瞬間に家族がいかに重要かを知っています」と投稿しました。
この言葉には重みがあります。というのは、バイデン前副大統領はボー氏に加えて、最初の妻と娘を交通事故で亡くしているからです。バイデン氏は人の苦しみを理解できる人物とみて間違いありません。
周知の通り、トランプ大統領はバイデン氏に対して、「寝ぼけたジョー」「のろまのジョー」とニックネームをつけたうえに、「認知症」とまで呼んでいます。ここまで侮辱されても、バイデン氏はトランプ大統領に暖かいメッセージを送ったのです。
余談ですが、米世論調査機関「ラスムセン・レポート」によれば、38%の有権者がバイデン氏が認知症であると考えています。ただ、この数字はほぼトランプ大統領の支持率と一致しています。ということは、トランプ支持者がそう捉えているとみてよいでしょう。
しかも、ラスムセン・レポートは他の世論調査と比較し、トランプ支持率を高く発表する傾向があります。トランプ氏は自身のツイッターにラスムセンの調査結果を頻繁に投稿します。これでは、「トランプ寄り」の世論調査機関とみられても仕方がないでしょう。
民主党大統領候補指名争いで、昨年6月に開催された1回目のテレビ討論会で、バイデン氏はカマラ・ハリス上院議員から人種差別問題で激しい攻撃を受けました。にもかかわらず、バイデン氏はハリス氏を副大統領候補に選択しました。もちろん、ハリス氏に女性票と黒人票の獲得を期待しているわけですが、それにしてもこのあたりにもバイデン氏の度量の大きさを感じます。
指名受諾演説の中で、バイデン氏は思いやり及び誠実さといった「人間らしさ」を自然に出すことができれば、有権者を必ず引き付けるでしょう。