2024年12月23日(月)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2020年7月28日

(wildpixel/gettyimages)

 今回のテーマは、「『隠れトランプ』と『隠れバイデン』」です。2016年米大統領選挙において共和党のドナルド・トランプ大統領に投票した民主党支持者は「隠れトランプ」と呼ばれました。それに対して、20年大統領選挙で民主党のジョー・バイデン前副大統領に投じる共和党支持者は「隠れバイデン」です。

 トランプ大統領は今回の大統領選挙においてどのようにして、「隠れトランプ」支持者をつなぎ留め、「隠れバイデン」支持者を最小限に抑えようとしているのでしょうか。一方、バイデン候補はどうやって「隠れトランプ」支持者を取り戻し、「隠れバイデン」票を増そうとしているのでしょうか。

 本稿では、「隠れトランプ」及び「隠れバイデン」を巡るトランプ・バイデン両氏の攻防戦について述べます(図表)。

「隠れトランプ」をつなぎ留めることができるのか?

 トランプ大統領は前回の大統領選挙で、自身を「アウトサイダー」及び「反エスタブリッシュメント(既存の権力者)」として描きました。そのうえで、バーニー・サンダース上院議員(無所属・東部バーモント州)を、「インサイダー」並びに「エスタブリッシュメント」のヒラリー・クリントン元国務長官を相手に戦う候補として称賛しました。

 16年民主党大統領候補指名争いでサンダース上院議員がクリントン元国務長官に敗れると、トランプ大統領は民主党主流派による「いかさま選挙だ」と語気を強めて、サンダース支持者の見方をしました。トランプ氏の思惑はサンダース氏を支持する民主党支持者の票を奪い取ることでした。

 20年民主党大統領候補指名争いからサンダース上院議員が撤退すると、今度はトランプ大統領は「バーニーは民主党主流派の犠牲者だ」と述べて同情を示し、サンダース支持者の票の獲得を狙いました。

 加えて、民主党大統領候補指争いを戦ったエリザベス・ウォーレン上院議員(東部マサチューセッツ州)が、党員集会と予備選挙が多くの州で一斉に行われるスーパー・チューズデーまでに撤退していれば、サンダース上院議員はバイデン氏に勝利できたと、トランプ氏は議論しました。その意図も、「隠れトランプ」票の獲得にあります。

 ただ、現職の大統領であるトランプ氏は4年前と同じように自身を「アウトサイダー」で「反エスタブリッシュメント」としてアピールし、サンダース支持者に訴えることは難しいでしょう。つまり、「インサイダー」で「エスタブリッシュメント」になったトランプ氏にとって「隠れトランプ」支持者のつなぎ留めは容易ではないということです。

バイデンのサンダース支持者への配慮

 これに対して、バイデン候補は「隠れトランプ」を取り戻そうと、サンダース陣営と政策のすり合わせを行うために共同チームを立ち上げました。共同チームは7月8日、110ページにわたる政策提言を公表しました。

 その中には、気候変動に関する国際的枠組み「パリ協定」復帰、連邦最低賃金の引き上げ、米国の製造業に対する支援、学生ローンの一部返済免除などが含まれています。

 バイデン前副大統領はサンダース上院議員が主張する国民皆保険の導入には反対の姿勢を崩していませんが、政策提言は同議員の支持者に配慮したものになっています。

 08年民主党大統領候補指名争いでバラク・オバマ候補(以下当時)がクリントン候補に大接戦の末、勝利を収めると、オバマ陣営のスタッフは即座にボランティアの運動員に対して、クリントン支持者の意見を否定せずに耳を傾けるように指示を出しました。当時、筆者は南部バージニア州フォールスチャーチにあったオバマ選対に研究の一環として入っていましたが、スタッフはクリントン支持者にかなり気をつかっていました。

 ところが、16年民主党大統領指名争いでクリントン候補がサンダース候補を破ると、クリントン陣営の一部のスタッフやボランティアの運動員はサンダース支持者に対して、「おまえちは負けたのだがら、ヒラリーに投票して当然だ」という見下した態度をとったのです。これが「隠れトランプ」を生んだ一因でした。

 従って、バイデン陣営は「隠れトランプ」支持者を取り戻すには、サンダース支持者に傾聴と敬意を示す必要があります。


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