2024年12月23日(月)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2020年7月17日

 今回のテーマは、「トランプの姪は何を暴露したか?」です。臨床心理士でトランプ大統領の姪のメアリー・トランプさん(55)が7月14日、同大統領に関する暴露本「Too Much and Never Enough: How My Family Created the World’s Most Dangerous Man(終わりなき欲望:どのようにして我が一族は最も危険な男を作り上げたのか」を出版しました。トランプ一族が初めて書いた暴露本として全米で注目を浴びています。

NYマンハッタンにあるバーンズアンドノーブル・ブロードウェイ店に平積みされた「Too Much and Never Enough: How My Family Created the World’s Most Dangerous Man」(REX/AFLO)

 メアリーさんは著書で、どのような環境要因が叔父にあたるトランプ大統領の性格形成に影響を与えたと分析しているのでしょうか。トランプ氏にはどのような思考回路及び行動パターンがあると観察しているのでしょうか。また、この暴露本は11月3日の米大統領選挙にどの程度影響を及ぼすのでしょうか。

 本稿ではメアリーさんと6月に回顧録を出版したジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の告発の共通点を取り上げながら、暴露本を読み解きます。

トランプのパーソナリティ

 メアリーさんはトランプ大統領の父親であるフレッド・トランプ氏の世界観が、同大統領の性格形成に多大な影響を及ぼしたとみています。フレッド氏のルールは、男はタフであり続けることでした。そのためにはウソは許容され、ミスを認めて謝罪することは「弱さ」だと叩き込まれたのです。トランプ家では謝罪はタブーで、親切心は弱さでした。

 何が正しくて悪いのかの価値基準が、トランプ家と学校では全く相違していたのです。従って、同家の評価方法は社会のそれとも異なっていました。

 さらに、フレッド氏の世界観は「人生における勝者は1人のみ。他は敗者である」でした。同氏は勝者と敗者を明確に区別していたのです。

 メアリーさんの父親で長男のフレッド・トランプ・ジュニア氏は、フレッド氏の厳格なルール及び世界観を受容できませんでした。メアリーさんによれば、あるときジュニア氏が仕事がうまくいかなかったために、フレッド氏に謝ると長男の失敗をあざけったというのです。

 父親と長男の関係を観察して学習したのが、次男のトランプ大統領でした。トランプ氏は兄よりも自分の方が優れていると父親に信じ込ませることに成功し、信頼を勝ち取りました。

父親の影響

 メアリーさんのトランプ大統領の性格形成の分析は、かなり説得力があります。というのは、筆者がこれまでに参加した大規模集会でトランプ大統領は支持者に向かって、「勝って勝って勝ちまくるんだ」と繰り返し強調していたからです。同大統領が過度に勝ちにこだわる点は、明らかに父親の影響です。

 トランプ大統領の思考回路では、米国のみが勝者なのです。国際協調は弱さです。そもそもトランプ氏には自分と相手の双方が勝つ「ウイン・ウイン(勝者・勝者)」という概念がないことを同盟国の政治指導者は理解するべきです。

 「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」には、勝者と敗者の論理が根底にあります。この点も父親の影響といえそうです。

 加えて、謝罪をしないこと及びウソをつくこともトランプ大統領の特徴です。あるトランプ集会に参加したとき、白人女性の支持者の1人が筆者に「トランプはめったに謝らない」と語っていました。例えば、バラク・オバマ前大統領がアフリカで生まれたと間違った主張をしたときも、謝罪しませんでした。

 トランプ政権のジェームズ・マティス前国防長官並びにボルトン前大統領補佐官はトランプ大統領はウソをつくと指摘しています。元政府高官が公の場で明確にそう述べるのは異例でしょう。

 トランプ大統領の思考回路には父親のルール及び世界観が完全にインプットされています。トランプ氏のすべての言動は父親に通じているのです。


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