海野素央の Love Trumps Hate

2020年7月17日

»著者プロフィール
著者
閉じる

海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授 心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08年~10年、12年~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年と12年米大統領選挙で研究の一環として日本人で初めてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。激戦州南部バージニア州などで4200軒の戸別訪問を実施。10年、14年及び18年中間選挙において米下院外交委員会に所属するコノリー議員の選挙運動に加わる。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。中西部オハイオ州、ミシガン州並びに東部ペンシルべニア州など11州で3300軒の戸別訪問を行う。20年民主党大統領候補指名争いではバイデン・サンダース両陣営で戸別訪問を実施。南部サウスカロライナ州などで黒人の多い地域を回る。著書に「オバマ再選の内幕」(同友館)など多数。

「替え玉受験」の真相

 暴露本の中で米メディアが特に取り上げているのが、トランプ大統領の「替え玉受験」です。高校時代のGPA(Grade Point Average:成績平均値)が低く、トップクラスにはるかに及ばなかったので、希望校に入学できないと懸念したトランプ氏は、頭の良い生徒であったジョー・シャピロ氏に金銭を支払い、大学進学適正試験(SAT)を「替え玉受験」させたと、メアリーさんは記述しています。

 当時は写真付きの身分証明書やコンピューターによる記録の必要がなかったので、「替え玉受験」が簡単にうまくやり通すことができました。しかも、トランプ大統領はメアリーさんの父親にペンシルべニア大学の入試担当事務局で働いている友人に連絡をとるように頼んだというのです。おそらくトランプ大統領は兄に口を利いてもらいたかったのでしょう。

 米メディアによれば、シャピロ氏は1999年に死亡しました。弁護士のシャピロ氏は、ウォルトディズニーの役員でカリフォルニア州立大学の講師でした。元プロのテニスプレーヤーの未亡人は、トランプ大統領とシャピロ氏はペンシルべニア大学で出会い、ゴルフ仲間であり、「替え玉受験」はなかったと語っています。

 しかし、メアリーさんは米ABCニュースとのインタビューでトランプ氏の「替え玉受験」について、「叔父に近い筋から聞きました。真実だと確信しています」と述べました。

 さて、今回の米大統領選挙はコロナ禍の影響で郵便投票で行われる公算が高まっています。これに対して、トランプ大統領は郵便投票における不正の可能性を理由として挙げ、猛反対して、写真付きの身分証明書の提示による従来型の投票を主張しています。

 仮にメアリーさんの告発が真実であれば、トランプ大統領は写真付きの身分証明書の必要がなかったので「替え玉受験」ができました。そのトランプ氏が、今度は「替え玉投票」をさせないために写真付きの身分証明書を厳しく要求しているのです。

ボルトン回顧録との共通点

 メアリーさんとボルトン氏の主張には共通点があります。メアリーさんは「トランプ大統領が2期務めれば、米国の民主主義は終わりだ」と警鐘を鳴らしています。ボルトン氏は「米国は後戻りができなくなる」と警告しています。

 さらに、メアリー暴露本とボルトン回顧録からトランプ大統領の行動パターンが明らかになりました。メアリーさんは著書で、トランプ大統領の姉のマリアンさんが、「ドナルドは撮影のあるときのみ教会に行く(中略)原則がない。何もない!」と語ったと紹介しています。カメラが回っているときにトランプ氏が礼拝に行く理由は、信仰心が厚いと見られたいからです。

 そう言えば、ホワイトハウス周辺に人種差別反対の抗議デモの活動家が集まると、トランプ大統領は催涙ガスやゴム弾で彼らを追い払いました。その後、徒歩でホワイトハウスの近くにあるセント・ジョンズ教会に行き、その前で右手に聖書を掲げて記念撮影を行ったのです。記念撮影を通じて、信仰心が厚い大統領を支持基盤であるキリスト教福音派にアピールしました。

 ボルトン氏は回顧録で、韓国と北朝鮮を隔てる軍事境界線にある板門店(パンムンジョム)での3回目の米朝首脳会談におけるトランプ大統領の目的は、記念撮影であったと明かしました。

 大統領就任前から、トランプ氏は記念撮影を利用して、意図したメッセージを戦略的に送信してきました。結局、トランプ大統領には記念撮影を強く意識して行動するパターンがあります。記念撮影はトランプ氏のコミュニケーション戦略において極めて重要な地位を占めていることは確かです。

関連記事

新着記事

»もっと見る