2023年3月21日(火)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2020年6月16日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授 心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08年~10年、12年~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年と12年米大統領選挙で研究の一環として日本人で初めてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。激戦州南部バージニア州などで4200軒の戸別訪問を実施。10年、14年及び18年中間選挙において米下院外交委員会に所属するコノリー議員の選挙運動に加わる。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。中西部オハイオ州、ミシガン州並びに東部ペンシルべニア州など11州で3300軒の戸別訪問を行う。20年民主党大統領候補指名争いではバイデン・サンダース両陣営で戸別訪問を実施。南部サウスカロライナ州などで黒人の多い地域を回る。著書に「オバマ再選の内幕」(同友館)など多数。

14日、トランプ大統領の74回目の誕生日を祝う支持者たち(Splash/AFLO)

 今回のテーマは、「なぜトランプは6月19日にタルサで大規模集会を再開しようとしたのか」です。ドナルド・トランプ米大統領は、新型コロナウイルス感染のために一時中断していた支持者を集めた大規模集会を、南部オクラホマ州タルサで19日に再開予定でしたが、翌20日に変更しました。19日再開を懸念する声が高まったからです。

 では、なぜトランプ大統領は当初19日を選んで、タルサで集会を開こうとしたのでしょうか。本稿では、トランプ氏の思惑に迫ります。

最悪のタイミング

 トランプ大統領は、「奴隷解放宣言の祝日」である6月19日の「ジューンティーンス」に支持者を集めた大規模集会を開催しようとしました。ジューンティーンスは6月(June)と19日(nineteenth)を組み合わせた造語です。

 そもそもジューンティーンスは、北軍陸軍のゴードン・グレイジャー将軍が1865年6月19日に、テキサス州ガルベストンで「南北戦争は終了し、奴隷は自由になった」と告げたことに由来します。エイブラハム・リンカーン元大統領は1863年1月1日に奴隷解放を宣言しましたが、奴隷所有者の中には宣言を無視する者がいたので、全州で実施するには2年半以上かかりました。

 黒人にとって6月19日は「自由の日」でもあり、通常ですと各地でパレードやコンサートなどが開催されます。ただ、今年は新型コロナウイルスの影響で縮小ないし中止になるところが出てくるかもしれません。

 米中西部ミネソタ州ミネアポリスで白人警察官による黒人男性暴行死事件がきかっけとなって、全国で反人種差別の平和的抗議デモが行われています。黒人差別問題で米国社会が揺れ動く中、トランプ大統領は6月19日の「奴隷解放のお祝いの日」を、選挙向けの大規模集会の再開日に設定したのです。これでは黒人に対する感受性が欠如していると指摘されても仕方がないでしょう。

論争を呼ぶ開催場所

かつて黒人のウォール街と呼ばれたタルサ中心部(zimmytws/gettyimages)

 しかも、トランプ大統領は大規模集会の会場に南部オクラホマ州タルサを選択しました。タルサは、1921年5月31日から翌6月1日まで、黒人虐殺事件が発生した場所です。

 当時、タルサのグリーンウッド地区は「黒人のウォール街」と呼ばれ、同地区には裕福な黒人コミュニティがありました。ところが、エレベーターの中での黒人少年と白人少女の「出来事」が原因となって、白人暴徒によって黒人が殺害されました。原因の詳細は未だに明白ではありません。

 タルサ歴史博物館によれば、グリーンウッド地区では商業施設、教会、学校、病院、図書館などが暴徒の対象になり、同地区のほぼ全域が破壊されました。2001年に設立された人種虐待調査委員会は、白人と黒人を含めた死者数を、100名から300名と推計しています。

 トランプ大統領は黒人虐殺の都市を大規模集会の再開場所に選択した訳です。自身のツイッターで「すでに20万人が登録した」と投稿し、自画自賛しました。集会の会場となる多目的アリーナ「ボックセンター」の収容人数は1万9000人ですので、トランプ氏がつぶやいた数字が正確であるならば、約10倍の登録があったということになります。

 これまでに筆者はトランプ集会に参加してきまたが、参加者は圧倒的に白人が多いです。トランプ大統領には黒人虐殺の場所で、支持基盤である白人至上主義者を集めて結束させる思惑があるのかもしれません。仮にそうであれば、黒人に対する敬意が欠けており、しかも挑発的であることになります。

 その結果、タルサでトランプ集会反対のデモ活動家と、白人至上主義者との衝突が発生しても全く不思議ではありません。


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