2024年12月23日(月)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2020年6月5日

ワシントンで抗議デモに参加する人々(REUTERS/AFLO)

 今回のテーマは、「抗議デモと米大統領選挙」です。中西部ミネソタ州ミネアポリスで、アフリカ系のジョージ・フロイドさん(46)が白人警察官に首を膝で押さえつけられて死亡する事件が起こると、その動画が瞬く間にSNSで拡散しました。その後、全国で抗議デモが起こり、暴徒化しました。その波は今、ホワイトハウスの周辺まで迫っています。

 ドナルド・トランプ米大統領はこの暴動をどのように選挙利用しているのでしょうか。本稿では、トランプ大統領の言動から読み解きます。

「強さ」の保持

 米メディアは5月31日、ホワイトハウス周辺で大規模の抗議デモがあった同月29日、トランプ大統領がメラニア夫人や息子のバロンさんとホワイトハウスの地下壕に1時間ほど避難したと報じました。トランプ氏はこの報道に怒ったというのです。

 おそらく、トランプ大統領は有権者から「弱いリーダー」と見られるのを嫌ったのでしょう。トランプ集会に参加すると、トランプ氏は支持者に向かって拳を握って強さを表現するジェスチャーを必ずします。常に「強いリーダー」のイメージを保持したいという意識があることは間違いありません。

 トランプ大統領は、「地下壕に逃げた」という弱いイメージを打ち消そうと、自身のツイッターで民主党大統領候補を確実にしたジョー・バイデン前副大統領をこう攻撃しました。

 「寝ぼけたジョーは弱い(省略)。弱さは無政府主義者、略奪者、悪党を打ち負かすことはできない」

 自分には「強さ」があり、暴動を鎮静化できる能力があるといいたいのです。トランプ大統領には自己イメージを傷つける報道に敏感に反応する特徴があります。

「神」まで利用するトランプ

 トランプ大統領は暴徒を恐れない姿勢を示すために6月1日、ウィリアム・バー司法長官やマイク・エスパー国防長官等の幹部を引き連れて、徒歩でホワイトハウスの傍にあるセント・ジョーンズ教会を訪問しました。教会の前に立つと、右手で聖書を掲げて記念撮影を行いました。支持基盤であるキリスト教福音派に、「信仰心の厚い」大統領をアピールする狙いがあったことは明らかです。

 ところが、ホワイトハウスの記者団が「それはあなたの聖書ですか?」と質問をすると、トランプ大統領は「聖書だ」と回答しました。自分の聖書ではなかったのでしょう。信仰心が薄いトランプ氏の選挙目的のパフォーマンスであった訳です。

 この件に関して、オバマ支持者の女性は「ドナルド・トランプは教会を訪問したが、お祈りを捧げなかった。聖書も読まなかった」とリツイートしました。結局、トランプ大統領は教会を利用したといえます。一歩踏み込んで言ってしまえば、「神」を選挙に使ったのです。

大統領警護隊(シークレットサービス)の選挙利用?

 ところで、この写真撮影を行うために、ホワイトハウス周辺で平和的デモ活動をしていた群衆に催涙ガスとゴム弾が撃ち込まれました。民主党のジェリー・コノリー下院議員(南部バージニア州第11選挙区選出)は、トランプ大統領のやり方に憤激して、大統領警護隊のジェームズ・マレー長官に書簡を送りました。

 この書簡の中で、コノリー下院議員は、「大統領警護隊は米大統領を守るのが仕事だが、ファシズム(独裁的国家主義)の道具になってはいけない」と指摘しました。「米国民の憲法上の権利を侵害してはならない」とも述べています。アメリカ合衆国憲法修正第1条は、表現の自由及び平和的な集会の権利を定めているからです。

 そのうえで、コノリー議員はマレー長官にトランプ大統領の教会訪問に関する関連資料の提出を要求しました。トランプ大統領が選挙のために大統領警護隊を利用したとみているからです。


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