2024年12月23日(月)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2020年6月2日

違反認定されたトランプ大統領のツイート( Rishi Deka/ZUMA Press/AFLO)

 今回のテーマは、「なぜトランプはツイッター社に報復措置をとったのか」です。ドナルド・トランプ米大統領は自身のツイッターに投稿した内容に、ツイッター社からファクトチェック(事実確認)の警告マークをつけられると激怒して、SNSの運営会社に対する規制に乗り出しました。

 どうしてトランプ大統領は、SNSの運営会社に報復措置をとったのでしょうか。本稿ではトランプ氏の動機づけを探ります。

トランプVS.ツイッター社

 米議会は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、11月3日の大統領選挙を郵便投票に変更するべきか、討論をしています。これに反対しているのが、トランプ大統領です。

 トランプ氏は5月25日、自身のツイッターに「郵便投票は実質的な不正に他ならない(絶対に!)。郵便受けから盗まれ、投票用紙は捏造され、違法に印刷すらされて、不正に署名される。カリフォルニア州の知事は、何百万人の人々に投票用紙を送った」と投稿しました。  

 トランプ大統領は根拠を示さずに、郵便投票は「不正の温床」になるとつぶやいたのです。実際、ギャビン・ニューサムカリフォルニア州知事(民主党)は、有権者登録をした同州の有権者のみを対象に送ったのですが、トランプ氏は同州在住の人は誰でも投票用紙を得たと書き込みました。

 ツイッター社がこの投稿に事実確認の警告マークを添付すると、トランプ大統領は怒りをむき出しにして、即座に報復措置に出ました。

 そもそもツイッター社及びフェイスブックなどのSNSの運営会社は米通信品位法230条によって、利用者の投稿内容に関して法的責任を負いません。利用者が事実無根の内容の投稿をしても、運営会社は免責されるわけで、法的に守られてきました。そこで、トランプ大統領は会社側の法的責任免除の法律を見直し、責任を問えることができる大統領令に署名したのです。

報復した本当の理由

 トランプ大統領の心境はこうです。同大統領はこれまで、自分にとって都合の悪い情報を流す主要メディアを「フェイク(偽)ニュース」とレッテルを貼り、情報の信憑性に疑問を投げかけることに成功してきました。ところが今回は、逆に自分が「フェイク」と疑われ、それが心外だったのです。

 トランプ大統領はツイッター社に対して、「選挙介入だ」と強く抗議しました。同社が8000万人以上のフォロアー(登録者)に向けて発信した投稿に「警告」マークをつければ、これまで通り支持者をマインド・コントロールできなくなるかもしれません。仮にそうなれば、警告マークは11月3日の投開票日に向けて、再選の障害になる可能性が高まります。

 トランプ氏の視点に立つと、「事実確認」の警告マークは「選挙妨害」であり、「公平」ではないのです。

トランプは何を守ろうとしたのか?

 トランプ大統領は2016年の米大統領選挙期間中に、オバマ政権がトランプ陣営にスパイ行為をしたと主張し、この疑惑を「オバマゲート」と呼んで、自身のツイッターで独自の陰謀論を展開しています。

 自分に批判的なケーブルテレビMSNBCの司会者ジョー・スカボロー氏が下院議員時代に、女性スタッフを殺害したという陰謀論に関して、トランプ大統領はツイッターに書き込みました。

 ネット上でトランプ大統領を擁護する謎の人物「Qアノン」は陰謀論者です。トランプ氏にとって、有利な陰謀論をネットで拡散しています。

 これらの陰謀論には根拠がなく、民主党支持の急進左派を標的にして、トランプ大統領の支持基盤を固める狙いがあります。ツイッター社に報復した理由として、陰謀論を守る意図があった点は看過できません。


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