今回のテーマは、「トランプを悩ます『リンカーン・プロジェクト』」です。新型コロナウイルス感染が続く中、インターネット上で急速に広まっている政治広告があります。リンカーン・プロジェクトと呼ばれる反トランプの共和党系スーパーPAC(特別政治行動委員会)が制作した「米国の悲嘆」というタイトルの広告です。
この広告の注目度は抜群です。そこで本稿では、同プロジェクトが米大統領選挙に与える影響について述べます。
「リンカーン・プロジェクト」のミッション(使命)
リンカーン・プロジェクトは2019年12月に発足し、20年第1四半期(1~3月)に250万ドル(約2億6900万円)の献金を得ました。民主党系のスーパーPAC「プライオリティーズUSAアクション」と比較すると小規模ですが、注目度はかなり高いです。というのは、同プロジェクトはミッションに、「選挙でトランプ大統領とトランプ主義を破ること」と明記したからです。
リンカーン・プロジェクトは南北戦争による分断の危機を乗り越えたエブラハム・リンカーン元大統領を理想の大統領として位置づけています。これに対して、トランプ大統領はリンカーン元大統領とは対照的で、分断を促進する大統領であると捉えています。
同プロジェクトは選挙でトランプ氏を打ち負かし、国が政治的及び心理的「傷」を癒して、全国民が新しいより良い道を進むことを可能にすると主張しています。
誰が顧問か?
リンカーン・プロジェクトの顧問は8名おり、彼らは反トランプの共和党関係者です。顧問の1人であるスティーブ・シュミット氏は08年米大統領選挙でマケイン陣営の選対本部長を務めましたが、「トランプ党」になった共和党に見切りをつけて同党を離れました。ジョン・ウィーバー氏は16年共和党大統領候補指名争いで、トランプ大統領と戦った中西部オハイオ州のジョン・ケーシック元知事の首席戦略官でした。
加えて、トランプ大統領に批判的な弁護士ジョージ・コンウェイ氏も顧問に名を連ねています。コンウェイ氏は、16年米大統領選挙においてトランプ陣営の選対本部長を務めたケリーアン・コンウェイ大統領顧問の夫です。つまり、夫婦で反トランプと親トランプに分かれています。
故ジョン・マケイン上院議員及びケーシック元知事は大統領選挙で敗れたので、トランプ大統領はリンカーン・プロジェクトを「負け犬のプロジェクト」とレッテル貼りをしました。トランプ氏はバーチャル・タウンホール・ミーティング(遠隔市民集会)をワシントンにあるリンカーン記念堂で開き、「自分はリンカーン元大統領と同じ共和党の大統領である」というメッセージを発信しました。リンカーン・プロジェクトを意識して会場を設定したと指摘されても仕方がありません。