今回のテーマは、「サンダース撤退の意味」です。バーニー・サンダース上院議員(無所属・東部バーモント州)は8日、民主党大統領候補指名争いからの撤退を表明しました。これで2020年米大統領選挙はドナルド・トランプ大統領とジョー・バイデン前副大統領の一騎打ちが確実になりました。ただ、サンダース上院議員の撤退声明には、今後の大統領選挙を占う上で、重要なメッセージが含まれています。
そこで本稿では、まず撤退声明を読み解き、次に撤退後のサンダース支持者の声を紹介します。その上で、トランプ大統領がどのようにして彼らを陣営に取り込もうとしているのかについて述べます。
代議員数獲得の継続
サンダース上院議員の撤退声明には少なくとも3つの注目点があります。
第1に、サンダース氏は撤退を表明したのにもかかわらず、支持者に「投票用紙に私の名前は残る」と告げ、8月の民主党全国大会まで「代議員を獲得し続ける」と主張した点です。これまで通り、獲得代議員数を上乗せしていくと言うのです。
そうすることで、民主党全国大会で決定する政策綱領に影響力を及ぼす可能性を示唆しました。民主党の政策を左派寄りにもっていきたいという思惑が読み取れます。
トランプ大統領も撤退表明したサンダース上院議員の代議員数増加に対する意欲に注目しました。連日の記者会見で、トランプ氏は「彼(サンダース氏)は撤退していない。これは撤退ではない」と語気を強めました。
サンダース上院議員はこれまで国民皆保険制度、学資ローンの債務帳消し及び最低賃金15ドルなどの公約を掲げて戦いました。サンダース氏にはこれらの政策に関する民主党指導部との交渉・取引で、獲得代議員数をテコにして自分の意見を受容させる意図があるのでしょう。そうなれば、民主党は全国大会で「バーニー色」の濃い政策を打ち出すことになるからです。
つまり、サンダース議員は「候補者」から「交渉者」ないし「取引者」に変わったといえます。
サンダースとバイデンの交換条件
第2に、撤退表明により今後、サンダース上院議員とバイデン前副大統領の「取引」が本格化する点です。では、どのような両氏の取引が可能になるのでしょうか。
バイデン氏が欲しているのは1点のみです。熱狂的なサンダース支持の若者です。
2016年米大統領選挙で、ヒラリー・クリントン元国務長官は女性、アフリカ系及びヒスパニック(中南米)系から一定の支持を得ました。しかし、本選で多くの若者がクリントン陣営の選挙運動に参加しなかったために「異文化連合軍」を組むことができず、トランプ氏に敗れました。バイデン氏にはその教訓があります。
サンダース上院議員はバイデン前副大統領の足元を見ています。おそらく、サンダース氏は若者の支持と国民皆保険制度の導入を交換条件に出すでしょう。
ただ、オバマケア(オバマ前大統領の医療保険制度改革)拡大を主張して予備選挙・党員集会を戦ったバイデン氏にとって、ハードルが高い交換条件であることは間違いありません。従って、バイデン氏は難色を示します。
そこで、サンダース氏は仮にバイデン氏が大統領に就任し、議会上下両院で国民皆保険制度の法案が通過した場合、拒否権を行使しないという交換条件を突きつけるかもしれません。
米メディアによれば、バイデン前副大統領はサンダース支持の若者を引きつけるために、学資ローンの債務を抱える学生に対して、1人につき最低1万ドル(約108万円)の返済を恒久的に免除する法案を支持しました。サンダース氏はこの最低額の引き上げや、今後の争点となる民主党副大統領候補に対する助言の受諾も交換条件として出してくる可能性があります。