海野素央の Love Trumps Hate

2020年4月3日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

瓦礫のなかで語り掛けるブッシュ大統領(Everett Collection/AFLO)

 今回のテーマは、「危機的状況下におけるトランプ、メルケル、ジョンソンのコミュニケーション能力」です。一向に収束の目途が立たない新型コロナウイルス感染拡大の危機に遭遇している世界各国のリーダーは、国民向けの演説や記者会見を開いて対応に追われています。その際に注目されるのが、彼らのコミュニケーション能力です。

 そこで本稿では、ドナルド・トランプ米大統領、アンゲラ・メルケル独首相及びボリス・ジョンソン英首相の3人のリーダーのコミュニケーション能力を言語・非言語の双方から比較分析します(図表)。

 

トランプ再選のストーリー(筋書き)

 まずトランプ大統領の言語コミュニケーションから見ていきましょう。トランプ氏はコロナ感染拡大の危機が自分の再選にとって有利な展開になるようなストーリーを描いています。

 優れたストーリーは登場人物(ヒーロー・悪者)、危機的状況及び結果から構成されています。トランプ大統領は自身を「戦時下の大統領」と呼び「ヒーロー」に、一方でコロナウイルスを「見えざる敵」とレッテルを貼り「悪者」に仕立てています。「151カ国が(ウイルスによって)攻撃を受けている。この戦争に勝つ」と語気を強めて語り、意識的に戦時体制下にあるような演出を行っています。

 米国の新型コロナウイルス感染者数は23万人を突破し、死者数は5600人を超えました(4月3日時点)。このような危機的状態に直面しているトランプ大統領はホワイトハウスでの記者会見で、全米のコロナ感染による死者数は10万人から最大で24万人になると予測しました。その上で、「10万人に抑えれば良い仕事をしたことになる」と述べて、「成功基準」を低く設定しました。

 このトランプ大統領の死者に対する感覚は、安倍晋三首相と比較すると全く異なります。トランプ氏は明らかにビジネス感覚で、死者数を語っています。10万人までは「許容範囲」であると解釈できます。率直に言ってしまえば、トランプ氏のコロナ感染に関するコメントの中には、死者数よりも大企業の売上損失に重点を置いているかのような発言があります。

 一方、安倍首相はコロナ感染がもたらす「死」に関して国民に警告を強く発する必要があります。リーダーの「死亡」及び「死者」に対する認識が低いと、死に直面する可能性があるという国民全体の危機意識が薄くなるからです。おそらく、欧米のリーダーと安倍首相の相違はここにあるでしょう。

 話を戻しましょう。トランプ大統領は支持者を集めた集会で、必ず彼らと一緒に「米国を再び安全にする(Make America Safe Again)」「米国を再び偉大にする(Make America Great Again)」を合唱して締めくくります。トランプ大統領には全米の死者数を10万人以下に抑えて、コロナ危機から米国を救い、「安全で偉大な国に戻した大統領」という評価を得る思惑があります。

 仮にこの狙い通りの結果になれば、支持率が一気に上昇し、再選が確実になるからです。コロナ対応について気まぐれな発言もありますが、トランプ大統領の大抵の言葉は筋書きに基づいた戦略と捉えてよいでしょう。

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