バイデンに対する熱意の欠如
第3に、サンダース上院議員のバイデン前副大統領支持の熱意が低い点です。サンダース氏は撤退声明の中で、支持者に対してバイデン氏と連携していくと述べましたが、声のトーンがフラット(平ら)で熱意を持って語っていません。
西部ネバダ州ラスベガスで2月21日に行われたサンダース支持の集会において、筆者と一緒にボランティアをしたアリゾナ州在住の白人女性ジャン・バリーさんは、サンダース撤退表明後、次のようなコメントをくれました。
「バーニーが撤退してとても悲しいです。ラスベガスでバーニーの選挙運動に参加していたときは希望がありました」
続いて、バリーさんはバイデン前副大統領についてこう語りました。
「正直言って11月にバイデンに投票するか、まだ分かりません。彼はバーニーの政策にもっと歩み寄らなければなりません。民主党全国大会でどうなるのか様子を見てみましょう。私にはバイデンに投じるのか決定するまでに充分な時間があります。今のホワイトハウスの主には絶対投票しません」
もちろん、ホワイトハウスの主とはトランプ大統領を指しています。サンダース議員の思いが反映されたバリーさんのコメントでした。バイデン前副大統領はまだバリーさんの1票を獲得できていません。
南部サウスカロライナ州コロンビアにあったサンダース選対で、ボランティアの運動員として筆者と戸別訪問を実施したフロリダ州在住の白人男性ポール・レジェンティンさんにもコメントをもらいました。彼は複雑な心境を語りながらも、すでに決心しているようでした。
「私は最近政治について考えないようにしています。民主党のエスタブリッシュメント(既存の支配層)の大ファンではありません。ですから、民主党エスタブリッスメントには投票しません」
つまり、バイデン前副大統領には投票しないという意味です。
逆に、サンダース陣営のスタッフであったシカゴ在住のアジア系米国人ソニャ・ワンさんは、「バーニーの撤退ビデオを観るのはとても辛かったです」と率直な感想を述べた後、バイデン前副大統領に投票する理由を説明してくれました。
「私はバイデンの政策に賛成しません。ただ最良の選択肢は11月の選挙で彼に投票し、バーニーの政策を実現するために戦い続けることです」
ワンさんはサンダース上院議員の政策実現の道を探っていました。さらに、米国社会における新型コロナウイルス感染拡大とサンダース氏が主張する国民皆保険制度の導入を結びつけて、次のように述べました。
「困難な状況の中で、多くの米国民がバーニーの政策が助けになると認識してくれることを願っています。それまで私たち(サンダース支持者)は、できる限り多くの人たちを助けるために戦い続けます」
サンダース上院議員と同様、ワンさんも正真正銘のファイターです。
これに対してバイデン前副大統領は東部デラウェア州ウィルミントンの自宅から、サンダース支持者に向かってインターネットを通じて「私は皆さんのことを見ている。私には皆さんの声が聞こえる」と呼び掛け、熱いラブコールを送りました。
ちなみに、この動画の視聴回数は26万8812回(4月9日時点)で、「いいね」の数が3638回、「悪いね」が9480回でした。バイデン氏の呼びかけは不発に終わりました。
トランプの「揺さぶり」と「切り崩し」
トランプ大統領は前回の大統領選挙と同様、サンダース支持者に揺さぶりをかけて切り崩しを図っています。サンダース支持者の票を奪えば、バイデン前副大統領が勝利する公算が小さくなるからです。
あるホワイトハウス担当記者がサンダース撤退に関して質問をすると、トランプ大統領は「なぜオバマはバイデン支持を表明しないのか」と疑問を投げかけました。その上で、記者団に向かって「オバマは君たちが知らない何かを知っている。私は知っているが、君たちは知らない」と、含みを持たせた言い方をしました。バイデン氏の言動について懐疑的にするトランプ大統領らしい心理作戦です。
トランプ大統領は「バイデンには公表できない秘密があり、それが原因でオバマは彼を支持できない。オバマと私は知っている」という「隠されたメッセージ」を発信し、サンダース支持者に揺さぶりをかけました。
同時に、サンダース支持者を「すばらしい人たちだ」と褒めたたえ、貿易政策で立場が一致していると強調し、共和党に加わるように彼らに呼び掛けました。