2024年11月22日(金)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2020年4月10日

「緊急事態宣言」について記者会見に臨む安倍首相(AFLO)

 今回のテーマは、「日本と欧米におけるコロナ対策の相違点」です。安倍晋三首相は4月7日、新型コロナ感染の急速な拡大に伴い「緊急事態宣言」を発令しました。宣言からコロナウイルスに対する日欧米の対応の相違点が見えてきました。そこで本稿では、コロナ危機をめぐる世界各国のリーダーの対応を紹介しながら、日本が抱えている問題点をコミュニケーションの視点を交えて述べます。

知事に対する「縛り」

 米中西部オハイオ州ではマイク・デワイン知事(共和党)が3月9日、3人の新型コロナウイルス感染者が確認されると、即座に「非常事態宣言」を出しました。ドナルド・トランプ大統領は翌10日、「国家非常事態宣言」を発令しています。デワイン知事はわずか3人の感染者で、トランプ大統領よりも早く同州に非常事態宣言を行い対策を講じました。

 例えば、オハイオ州では集会が禁止され、レストランやバーは閉鎖に追い込まれました。筆者が研究の一環として参加していた州都コロンバスのバイデン選対も閉鎖を余儀なくされました。

 デワイン知事は大統領が出した国家非常事態宣言に縛られることなく、次々と対策を打ちました。同知事は、理髪店、ホームセンター及び居酒屋などに対して休業要請を出すのか、その調整を連邦政府と協議し時間を費やす必要はありません。知事の「自由度」が高い訳です。

 一方、日本では安倍首相の「緊急事態宣言」発令後に、対象地域となった7都府県の知事に権限が与えられました。知事に対する「縛り」があり、それが危機的状況において「スピード感」を持って対応に当たれなかった一要因となっています。

「スピード感」の欠如

 前述した制度上の問題に加え、日本は東京五輪・パラリンピック年内開催か延期に関して決定を下さなければならない課題も抱えていました。「完全な形での開催」にこだわった安倍首相はコロナ対策よりもこの決断に時間を費やし、初動対応が遅れた事実は否定できません。多少乱暴な言い方をすれば、「東京五輪・パラリンピックファースト、コロナセカンド」のツケが今、回ってきているということです。

 日本が東京五輪・パラリンピック年内開催か延期かでモタモタしている間に、欧米及び韓国では国民にウイルス検査を積極的に実施しました。トランプ大統領はホワイトハウスで連日行われるコロナ対応に関する記者会見で、「179万人(4月5日時点)がウイルス検査を受けた」と胸を張り、「米国は他国よりも検査のスピードがある」と強調しました。

 これに対し、安倍首相はやっと4月7日になって「(ウイルス感染を調べる)PCR検査が6日時点で、全国で1万1000件のウイルス検査能力を確保した。1日2万件に倍増する」と衆議院運営委員会で説明し、検査件数の拡大に努力する姿勢を示しました。

 この背景には在日米国大使館が3日、米国や欧州と比較して日本におけるコロナ感染者数が少ない理由に触れ、「日本政府が広範囲にわたって検査を実施しないと決めたことで、コロナの罹患率を正確に評価するのが難しい」と指摘し、実際の感染者数は公式発表の数よりも多いという含みを持たせたことがあったとみてよいでしょう。安倍首相の突然の検査体制強化は、ダメージコントロールです。在日米国大使館の警告を弱めて、「しっかりやっている」というメッセージを発信したフシがあります。

 では、なぜ安倍首相は当初から全国規模のウイルス検査に全力を挙げて取り組まなかったのでしょうか。おそらくウイルス検査により、全国の重症者、軽症者及び無症状感染者の数を正確に把握すると、東京五輪・パラリンピックのイメージが低下し、世界から「延期」ではなく、「中止」の声が上がる可能性を懸念したのかもしれません。

 是が非でも最悪のケース(開催中止)を回避し、東京五輪・パラリンピックを自分のレガシー(政治的遺産)にしたいという心理が首相に働いたのでしょう。その結果、コロナ感染に対して「スピード感」のある対応ができませんでした。


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