2024年12月22日(日)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2020年3月17日

16日、プレスブリーフィングを行うトランプ大統領(AP/AFLO)

 3月13日、トランプ大統領が新型コロナウィルスの感染拡大を受けて「非常事態宣言」を出したことで、今年2回目の米国調査を行っていた明治大学海野素央教授は、急きょ帰国することを余儀なくされた。というのも、この宣言を受けてオハイオ州コロンバスにあったバイデン候補の選挙事務所が閉鎖されたことで、戸別訪問、電話による投票の呼びかけが中止になったからだ。

 帰国早々の海野教授に米国における新型コロナウィルスの影響と、トランプ大統領の動き、民主党大統領候補の予備選の見通しについて聞いた。

 「今日のこと(3月17日)ですが、トランプ大統領が、ツイッターで新型コロナウィルスのことを『中国人のウィルス』と言ったことには、またやってきたなという感じがしました。トランプ大統領の得意手段で、問題をすり替えて、第3者の悪者を作るという、いつものパターンです。移民が入ってくるのは、メキシコ人が悪い、『メキシコに壁を作れ』と言っていることと全く同じです。

 この背景には、16日になって発表した『アメリカ国民のためのガイドライン』で、15日間、10人以上に集まらないように指示を出しました。これによって、これまで支持者をつなぎとめていた大規模集会が開けなくなったことがあります。

 そこでもう一つの武器である、ツイッターによる情報操作を強化することで支持者固めに動いたのです。私はトランプ大統領の当選以降、何度も集会に参加してきましたが、共通するのは、『支持者の中国嫌いです』。だから、私は必ず日米両国旗のピンバッチを付けて、トランプ集会に並びます。『中国は貿易でアメリカを搾取し、アメリカの知的財産を盗み、今度はウィルスでアメリカをアタック(攻撃)してきた』と、支持者に訴えかけているのです。経験上、そのようにすれば、支持者にウケるということが分かっているのです」

 つまり、それだけトランプ大統領の置かれた立場が微妙になってきたということだ。というのも、海野教授も指摘してきたように、トランプ大統領は「新型コロナウィルスは、でっち上げだ。インフルエンザで年間死者数2万7000万人。それと比べればコロナなど小さい」とのたまわってきた。

 それにしても、自身への支持率の影響を避けようと、新型コロナウィルスを軽視してきたトランプ大統領は、なぜ豹変したのだろうか?

 「まさにそこがポイントです。結局、目に見えて死者数が増えたことが影響していると思います。17日時点で、死者は85人に上っています。おそらくトランプ大統領自身、自分の本当の敵は新型コロナウィルスだと思ってきたのでしょう。まさに見えない敵が現れたということです。バイデン・サンダースどころじゃない。つかみどころがない敵が出現した。これは、ツィッターで攻撃できない。これまでのように『フェイク』にもできない。まさにトランプ大統領が強みとしてきた戦略が通用しないのです。だからこそ、トランプ大統領は焦っているのだと思います。

 G7首脳による緊急テレビ会議が行われましたが、これもアメリカ東部時間の朝10時です。『やっている感』をアメリカ国民に見てもらうために開催したようなものです。これまで11月の大統領選本選まで、支持率の源泉である経済状況もキープできると安心していたのが、ここに来て、トランプ大統領にも火がついてきたということです。16日の記者会見などを見ていると、これまでにくらべてあきらかに明るさがありません」

 さて、楽観主義で初動に失敗したとも言えるトランプ大統領だが、アメリカ国民はこれに対してどのような反応を示しているのだろうか。

 「アメリカの公共放送であるPBSが、WSJとNBCの調査(3月11~13日)を流していました。アメリカ国民のコロナに対する家族が罹患する懸念度です。民主支持者が68%、共和支持者が40%でした。現在民主党支持者のほうが懸念度合は高いですが、これから共和党支持者の懸念も高まってくることが予想されます。

 『地球温暖化問題』など、科学的な問題に対して否定的な意見持つ人が多い共和党支持者ですが、主観的な判断である『寒い、暑い』と異なり、新型コロナウィルスによる死者が増えていくという現実を見さされれば、さすがに信じないというわけにはいかないでしょう。

 私も急きょ帰国することになりましたが、オハイオ州・コロンバス空港で、手荷物検査に並ぶことがなく、あれほど人がいないという状況に初めて出会いました」


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