今回のテーマは、「バイデン陣営とサンダース陣営はどこがどう違うのか」です。中道・穏健派のジョー・バイデン候補と左派のバーニー・サンダース候補の政策はもちろん異なるのですが、現地調査を行うと、それ以外にも顕著な相違点が存在することが明らかになりました。そこで本稿では、現地調査の結果に基づいて、両陣営の相違及び融合の仕方を中心に述べます。
選対文化の相違
筆者が3月8日中西部ミシガン州デトロイトにあるバイデン選対に到着すると、20代と見られる約10名の若いスタッフがパソコンの画面を見て、黙々と仕事をしていました。
選対の雰囲気がサンダース陣営と全く違うのです。西部ネバダ州ラスベガスにあったサンダース選対では、若者のスタッフ及びボランティアの草の根運動員がワイワイガヤガヤしながら、戸別訪問の準備並びに電話による支持要請を行っていました。サンダース選対には開放的な雰囲気がありました。
バイデン選対で働いている大卒3年目のスタッフであるディオンさんとコミュニケーションを3日間とりましたが、彼は学生ローンの債務について1回も語りませんでした。他のスタッフも同様です。おそらく、彼らの親はエスタブリッシュメント(既存の支配層)で、不自由のない生活を送っているのでしょう。
バイデン陣営のスタッフであるクインさんと同月12日、中西部オハイオ州コロンバスで標的となっている中間層を対象に戸別訪問を行いました。その際、筆者が学生ローンの債務について質問をすると、彼は次のように回答しました。
「両親が授業料を支払ってくれたから、僕には学生ローンの債務はないよ。僕はラッキーなんだ」
筆者が接触したバイデン候補の若手スタッフは、サンダース候補を支持する若者のボランティアの草の根運動員とは異なり、学生ローンの返済の義務及び期限に対する切迫感がありませんでした。従って、サンダース候補の主要な政策である学生ローンの債務帳消し並びに公立大学の授業料の無償化は、彼らにとって同候補を支持する動機づけには全くならないのです。
バイデン候補とサンダース候補の一騎打ちは、言い換えれば「エスタブリッシュメント対草の根運動員」となります。
バイデン陣営はサンダース候補をどう見ているのか
米国では日本と異なり、投票日当時でも選挙運動を行うことが可能です。ミシガン州の民主党予備選挙の投票日であった3月10日、バイデン陣営の3人のスタッフ及びボストンから駆けつけたアフリカ系のボランティアの運動員と一緒に、有権者に向かって同候補への投票を呼びかけました。
スタッフのジョンさんが選択したスポットは交通量の多いデトロイトのウッドワード・アベニューとマーチン・ルーサー・キング・ジュニア・ブルバードの交差点の角でした。走り抜けていく自動車や、一時停止する運転手に向かってバイデン候補の看板を上下や横に振り、彼らの注意を引いたのです。
バイデン支持の運転手はクラクションを鳴らしたり、親指を立てるジェスチャー(サムズアップ)をして、「バイデン支持」という非言語メッセージを発しました。一方、反バイデンの運転手は親指を下げるジェスチャー(サムズダウン)をして、「バイデン不支持」という非言語メッセージを発信しました。トランプ支持者は車の窓から顔を出して、罵声を浴びせました。
運転手や通行人にバイデン支持を訴えていると、突然、地元ミシガン州出身のスタッフであるディオンさんが、声のトーンを上げて「革命は終わった」と言ったのです。それを聞いたジョンさんが、即座に「僕はその言葉が好きだよ」と同意していました。「革命」はサンダース候補のメッセージです。
筆者と戸別訪問を実施したボランティアの運動員ヴェロニカさんは、サンダース候補を次のようにみていました。
「米国では億万長者は尊敬されているのに、サンダースは彼らは必要ないと主張しているの。サンダースはそこが社会主義者なの」
加えて、ヴェロニカさんはサンダース候補とドナルド・トランプ大統領の共通点を一言で述べました。
「分断」
バイデン支持者のヴェロニカさんは、民主党分裂の責任はサンダース候補にあるとみていました。