今回のテーマは、「バイデン陣営の戸別訪問」です。米民主党候補指名候補争いにおいて、ジョー・バイデン候補の勢いは止まらず、3月10日に行われた中西部ミシガン州における予備選挙においても、バーニー・サンダース候補に対して、15ポイント以上の差(93%開票)をつけて勝利を収めました。4年前の選挙では、同州でヒラリー・クリントン候補はサンダース候補に敗れています。
バイデン候補はサンダース候補に圧勝し、トランプ大統領が2016年米大統領選挙で民主党から奪還したミシガン州において、「勝てる候補」であるという印象を与えました。
では、サンダース陣営と比較してボランティアの数が少ないバイデン陣営は、どのようにしてミシガン州のアフリカ系有権者の支持を得て、戸別訪問を乗り切ったのでしょうか。本稿では、現地調査に基づいて、バイデン陣営の戸別訪問の手法を紹介します。
苦しい台所事情
デトロイトのダウンタウンから車で北へ10分ほど走り、バイデン選対に到着すると、愕然としてしまいました。スーパーチューズデーの勝者の選対とは到底思えなかったからです。
筆者はこれまでオバマ陣営などに入り、各州にある選対を見てきましたが、これほどお粗末で不衛生な選対は見たことがありません。建物の外観を見る限りではボロ屋とはいえませんが、平屋の1階にある選対は狭くて薄暗く、電話による支持要請を行っている際中に、ネズミの鳴き声が聞こえました。
そもそも大抵の選対は、ショッピングモールやビジネス街の中にあり、明るくてクリーンなイメージあります。バイデン候補の選対は低所得者層が住む地域にありました。同候補がアフリカ系の低所得者の有権者を狙っているので、戦略的に選対のロケーションを決定したと思っていたところ、バイデン陣営のスタッフであるディロン・リンクレイターさんが本当の理由を明かしてくれました。
「ジョーはミシガン州で資金を集めることができなかったんだ」
選挙資金の問題だったのです。女性スタッフは、「やっと3日前に選対を開くことができたの」と語っていました。つまり、3月10日の予備選挙のわずか5日前に選対を構えたということになります。これはかなり異例です。バイデン候補はそれだけ台所事情が苦しかったわけです。
ブルームバーグの「助け舟」
ところが、民主党指名争いから撤退した億万長者マイケル・ブルームバーグ氏が、バイデン候補に「助け舟」を出したのです。
地元出身の62歳の白人女性で、バイデン陣営のボランティアの草の根運動員ヴェロニカ・アダムスさんは、バイデン候補の資金力について、笑顔でこう語りました。
「ミシガン州やフロリダ州など6州で働いていたブルームバーグのスタッフが、ジョーの選挙運動に参加するの。ブルームバーグが彼らの給料を支払うと言っているわ。しかも、民主党の上院選もブルームバーグが資金面で応援してくれるの。彼は『チーム・ジョー』に入ったのよ。素晴らしいでしょ」
バイデン候補は資金面でブルームバーグ元候補の支援を受けることになったわけです。仮に、バイデン氏が大統領に当選すれば、ブルームバーグ氏は主要なポストを得るでしょう。
投票日当日の行動計画
地元デトロイトの大学を卒業し、首都ワシントンのグリーンピース(NGO)に務めていたヴェロニカさんと一緒に、戸別訪問を行うことになりました。ところが、筆者の服装を見ると、即座にこう注文をつけてきたのです。
「あなたはバイデン支持のTシャツを持っていないの。持っているなら今、着なさい。戸別訪問をしたときに、こうやってTシャツを有権者に見せるのよ」
ヴェロニカさんは突然筆者に近づいて、上着で隠れていたバイデン支持のTシャツをいきなり見せました。
「スーパーマンみたいですね」
「・・・・・・」
筆者はヴェロニカさんを思いっきり持ち上げたのですが、彼女はそれに反応を示しませんでした。今思えば、「スーパーウーマン」と言うべきところでした。
続いて、ヴェロニカさんは効果的な戸別訪問を行うためのポイントを説明しました。
「バイデン支持の有権者には、投票日の行動計画を立てさせるの。午前に投票に行くのか。午後か、あるいは夕方に行くのか、有権者に考えさせるの」
2012年米大統領選挙で、オバマ陣営が支持者を投票所に動員して、投票率を高めるために用いた選挙戦略と全く同じです。
これに対して、サンダース陣営は南部サウスカロライナ州で積極的に戸別訪問を実施していましたが、投票率向上の戦略に欠けていました。