苦しい時の「オバマ頼み」
ヴェロニカさんは、アフリカ系の家を訪問するたびに、「ジョーは8年間オバマの副大統領でした」「ジョーは前大統領(オバマ氏)のアドバイスに耳を傾けます」「ジョーはオバマのパートナーです」と述べて、「オバマ」を前面に出していました。もちろん、サンダース陣営の戸別訪問には、このアドバンテージはありませんでした。
しかも、彼女はこう言ってダメ押しまでしたのです。
「モトオは大統領選挙でオバマ陣営に入っていました」
もうここまでくると、訪問したアフリカ系の有権者は親しみを持ってヴェロニカさんと筆者に接してくれました。
「私はバイデンはトランプを倒すことができると信じています」「バイデンはオバマの副大統領だったので、信頼できます。私はサンダースについてはよく知りません」「バイデンには経験があります。大統領に就任したら、1日目から大統領としての仕事ができます」など、彼らから極めて肯定的な声を聞くことができました。
フォード・モーター・カンパニーを退職したあるアフリカ系のバイデン支持者は、同候補とドナルド・トランプ大統領を比較して、次のように述べました。
「次の大統領には思いやりが必要です。現職の大統領にはありませんが、バイデンにはあります」
このアフリカ系の有権者は、トランプ大統領には全ての人種や民族に対する「思いやり」が欠けていると見ていました。
前述しましたが、サンダース陣営と比べてボランティアの数において劣勢にあるバイデン陣営の運動員であるヴェロニカさんの戸別訪問は、一言で言えば「オバマ頼み」です。
彼女はサンダース候補のテレビ広告を、複数回にわたってこう批判していました。
「サンダースはテレビ広告の中でオバマを登場させるの。オバマがサンダースを支持表明したと、有権者に誤解させる広告なの」
中高年のアフリカ系有権者の票を獲得したいサンダース陣営は、オバマ前大統領の助け舟が欲しいというのが本音でしょう。ヴェロニカさんのオバマ前大統領とバイデン候補を結びつけた戸別訪問の手法は、筆者にはサンダース陣営のテレビ広告よりも、パワフルに見えました。
さて、ミシガン州では新型コロナウイルス感染者数は2名(当時)でしたが、戸別訪問の途中でヴェロニカさんが手指を消毒しようと提案しました。訪問の際、ドアノブに触れるからです。08年から米国で戸別訪問を行っていますが、訪問中の手指の消毒ジェル使用は筆者にとって初めての経験でした。
共通の認識
以前説明しましたが、サンダース候補を支持する若者は、学生ローンの債務帳消しを実現しようと、エネルギーを同陣営に注いでいました。一方、就活中のヴェロニカさんは、トランプ大統領がオバマケアを葬ると、無保険者になってしまうという恐怖心から、バイデン陣営の選挙活動に時間を費やしていました。
サンダース陣営の若者とバイデン陣営のヴェロニカさんは、敵対関係にあるわけですが、双方とも大統領選挙の結果が自分の人生に与える影響について充分理解していました。つまり、「投票が人生を変える」ということを強く認識していたのです。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。