海野素央の Love Trumps Hate

2020年3月1日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

 今回のテーマは、「サンダース陣営の戸別訪問」です。筆者は研究の一環として、バーニー・サンダース大統領候補支持の若者と一緒に、南部サウスカロライナ州コロンビア及び郊外のイーストオーバーに住む低所得者のアフリカ系並びに学生を対象にした戸別訪問を実施しました。同州ではサンダース陣営は、アフリカ系と若者に焦点を絞って戸別訪問を行っています。

 合計138軒(2月27日現在)の標的となっている有権者の家を訪問しました。そこで本稿では、サンダース陣営の運動員とアフリカ系有権者の声を中心に紹介します。

サンダース選対で働く若者(筆者撮影@南部サウスカロライナ州コロンビア)

「ストリーテリング」の力

 24歳の白人男性のポールさんは、南部フロリダ州オーランドからサウスカロライナ州コロンビアにサンダース候補の応援に駆けつけました。「デジタルネイティブ」と言われるジェネレーションZのポールさんは、熱狂的なサンダース支持者です。ポールさんは有権者にこう語ってサンダース支持を訴えていました。

 「私の弟は精神病が原因で、大学を中退しました。今はコミュニティ・カレッジに通っていますが、医療費がかかります。弟のような学生には、国民皆保険が必要です。バーニーは国民皆保険を導入します」

 ポールさんはサンダース候補の政策に関して言及する際、それと関連した自分及び家族のストーリー(物語)を熱心に語っていました。いわゆる、ストーリーテリング(物語を語る)は、有権者を説得する際の効果的な手法の1つです。

 ただし、アフリカ系の中には「国民皆保険はいりません。私には低所得者向け公的医療保険制度(メディケイド)があるからです」と回答する者がおり、このような有権者は説得のハードルが高いのも事実です。

 さらに、ポールさんは次のように述べて低所得者のアフリカ系の心をつかもうとしていました。

 「バーニーは大企業やスーパーパック(特別政治活動委員会)から献金を受けていません。億万長者(billionaires)からも献金をもらっていません。バーニーの献金は、個人からの小口献金です」

 サンダース候補の全てのパンフレットには、「億万長者によって献金されたものではない」と印刷してあります。普通の米国人による小口献金によってパンフレットが作成されたという意味です。

 ポールさんは、サンダース候補は富裕層ではなく低所得者を含めた「普通の米国人を気遣う候補」であるというメッセージを発信している訳です。

 実際、サンダース候補はドナルド・トランプ大統領及び与党共和党のみならず、野党民主党のエスタブリッスメント(既存の支配層)も批判しています。「エスタブリッシュメントは普通の米国人を気に欠けない」というメッセージは、大抵の有権者から支持を得ています。

電話でサンダース候補の支持要請をする運動員(筆者撮影@南部サウスカロライナ州コロンビア)

就活中の戸別訪問

 南部バージニア州からサウスカロライナ州のサンダース陣営に入った30歳の白人男性トムさんの愛車であるスズキの白色のSUVに乗ると、スーツとネクタイが座席にかけてありました。なんと彼は、コロンビアでの就職活動の合間に戸別訪問を行っていたのです。トムさんはそれほどサンダース候補に熱狂的でした。

 車中でトムさんは、サンダース候補と富豪家トム・スタイヤー候補の運動員の相違を説明してくれました。

 「戸別訪問を行っているバーニーのボランティアの運動員は無給です。それに対して、スタイヤーは戸別訪問をする運動員を雇っています。彼らは有権者の家を訪問して、パンフレットを渡してくるだけです。ハートがありません。バーニーの運動員には情熱があります。私たちは心から有権者に語りかけています」

 つまり、トムさんは無給で戸別訪問を行うサンダース候補の運動員は、金銭目的で行っているスタイヤー候補の運動員とは、熱意のレベルが異なるというのです。

サンダース候補の選対(筆者撮影@南部サウスカロライナ州コロンビア)

 彼のサンダース候補に対する情熱は戸別訪問においても現れていました。ある出来事を紹介しましょう。

 イーストオーバーの選挙区に入ると、バイデン陣営の運動員が戸別訪問を行っていました。

サンダース陣営のGOTVのパンフレット(筆者撮影@南部サウスカロライナ州コロンビア)

 同選挙区の標的となっている有権者の家を訪問すると、スタイヤー候補のGOTV(Get Out The Vote: 投票に行こう)のパンフレットがドアの取っ手にかかっていました。スタイヤー陣営もサンダース陣営と同じ有権者を狙っていました。

 トムさんはスタイヤー候補のパンフレットを取っ手からはずして、小さく折ってブルージーンズの後ろのポケットにしまいました。何も語らずに筆者の顔を一瞬見た後、サンダース候補支持のパンフレットをかけたのです。

 「次の有権者の家に行こう」

 彼はそう言うと、標的となっている他の有権者の家に筆者と向かいました。その後、数名の有権者を訪問して、例のスタイヤー候補のパンフレットがかかっていた家の前を通ると、トムさんが突然こう言ったのです。

 「ちょっと待って。違うパンフレットがかかている」

 ジョー・バイデン候補のパンフレットがドアの取っ手にかかっていたのです。明らかに、同選挙区で戸別訪問をしていたバイデン陣営の運動員がサンダース候補のパンフレットをバイデン候補のそれに差し替えたのです。トムさんは、バイデン候補のパンフレットをとりはずし、クシャクシャに丸めて、サンダース候補のパンフレットを再度、ドアの取っ手にかけました。

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