今回のテーマは、「新型コロナウイルス感染が与える米大統領選挙への影響」です。筆者は米民主党大統領候補指名争いの現地ヒアリング調査のために、3月11日中西部オハイオ州コロンバスに入り、翌12日バイデン陣営で戸別訪問を実施しました。ところが、同州では新型コロナウイルス感染拡大のために、バイデン選対が閉鎖に追い込まれたのです。
そこで本稿では、新型コロナウイルス感染が、どのように米大統領選挙に影響を与えているのかについて、現地でのエピソードを交えながら紹介します。
初動対応が遅れた本当の理由
ドナルド・トランプ米大統領の危機管理能力に疑問符が付きました。当初、トランプ大統領は新型コロナウイルス対策ではなく、ウイルス感染と11月の大統領選挙を絡めた言動をとったからです。
例えばトランプ大統領は、野党民主党はロシア疑惑及び弾劾裁判で失敗したので、新型コロナウイルス感染を「政治的武器」に利用していると繰り返し主張しました。感染症対策よりも民主党対策に重きを置いたのです。これが初動対策が遅れた理由になりました。
さらに、トランプ大統領は米国におけるインフルエンザと新型コロナウイルスによる死者数を比較し、感染の危険性を小さくみせました。年間約2万7000人がインフルエンザによって死亡していると強調し、新型コロナウイルスの脅威の過小化を図ったのです。
米国内での新型コロナウイルス感染症による32人の死者数(3月13日現在)にも触れ、「他の小さな国ではもっと死者が出ている」とも述べて、他国と比べて新型コロナウイルス対策ができているとアピールしました。
トランプ大統領は自身のツイッターに、感染者数の多い国を対象に入国制限をかけた件について、「厳格な国境管理をしていなかったら、米国内の死者数はもっと増えただろう」と投稿し、ここでも成果を強調しています。ライバルの民主党大統領候補に攻撃材料を与え、新型コロナウイルス感染を大統領選挙の主要な争点にしたくないという思惑がにじみ出ていました。
結局、危機的状況におけるトランプ大統領のこれらのリスクコミュニケーションは、一部の米国民に誤った認識を与え、リスク軽減というよりもリスク拡大につながってしまった可能性があります。
にもかかわらず、コロンバズ在住でシャトルバスの運転手をしているトランプ支持者の白人男性は、次のように語っていました。
「米国が9.11(同時多発テロ事件)に直面したとき、米国民はブッシュ(子)を選んだ。だから、今回も同じリーダーを選択する。トランプが再選すると思う」
この白人男性は、危機的状況下では米国民はリーダーを変えないと議論していました。しかし、9.11は2001年に発生しており、大統領選挙は04年に実施され、両者は重なっていません。
冗談を言い握手をするトランプ
トランプ大統領はホワイトハウスの記者団に対して、「この1週間、顔を手で触っていないよ」と冗談を言うなど、新型コロナウイルス対策に関して本気度に欠けていました。
加えて、トランプ大統領のコロナ感染症の脅威を過小評価する発言が続きます。人が密に集まる場所は感染リスクが高いのにもかかわらず、南部フロリダ州タンパでトランプ集会の開催を検討していると記者団に明かしたのです。多くの専門家が感染症拡大を抑えるために、人との接触を避けるように勧めている最中の発言でした。
トランプ大統領にとってツイッターを通じた情報操作と、大規模集会による支持者の熱狂さの維持は、選挙戦略の2本柱になっているからです。そうは言っても、集会開催の可能性に触れたトランプ氏は、自らの危機意識の欠如を露呈しました。
トランプ大統領の危機管理能力のなさを物語る場面を、もう1つ紹介しましょう。ホワイトハウスで13日行われた記者会見で、トランプ大統領はウォルマート及びターゲットといった大手小売業の最高経営責任者(CEO)を招き、彼らとしっかり握手を交わしたのです。言うまでもなく、米国は握手の文化ですが、専門家は感染拡大につながるのでそれを避けるように警告しています。
ちみに、バイデン選対では握手やハイタッチは控えており、代わりにグータッチや肘タッチを行っていました。