2024年11月22日(金)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2020年5月14日

「米国の悲嘆(Mourning in America)」

 1984年の米大統領選挙でロナルド・レーガン元大統領は、「米国の朝(Morning in America)」というタイトルのテレビ広告を打ちました。この広告には、新聞配達の少年、農夫、星条旗をポールに掲げる父親とそれを見上げる子供などが登場します。未来志向が強く、「夢」「エネルギー」及び「希望」を与えるポジティブな選挙広告です。

 一方、「米国の悲嘆」はコロナ危機に直面している人々の「不安」「恐怖」並びに「絶望」に焦点を当てた極めてネガティブなビデオ広告です。しかし、5月4日に公開されてから、視聴者数はすでに553万4000以上です。

 このビデオ広告には様々な「仕掛け」があります。第1に、広告の冒頭、中西部にあると思われる荒廃した建物や閉鎖された工場及びホームレスが登場します。リンカーン・プロジェクトは、トランプ陣営が16年米大統領選挙で使用した同じ戦略を、トランプ大統領にぶつけています。

 第2に、新型コロナウイルス感染による死者を運ぶ医療従事者や、感染した愛する人が助からないかもしれないと不安そうな仕草をして病院の待合室にいる男性が登場します。視聴者の中には、自分が同様の場面に遭遇している姿を想像する者がいるでしょう。

 第3に、レーガン元大統領の選挙広告「米国の朝」では、ナレーターが「その日の午後に」と語って、結婚するカップルを紹介します。一方「米国の悲嘆」では、ナレーターが「その日の午後に」と述べて、失業保険の申請書に記入する男性が現れます。2つの広告は、極めて対照的に作られています。

 第4に、広告の最後に憂鬱そうな目をした中高年のアフリカ系女性が登場します。マスクを着用しているので彼女の表情は分かりませんが、この目が視聴者に強いメッセージを送っていることは確かです。

 第5に、「トランプ大統領のリーダーシップの下で、米国はさらに弱くなり、病み、貧困になった」「このような状態がもう4年続いたら、米国は存在すらするのだろうか」という問いかけのメッセージで広告は終了します。

 「不安」及び「恐怖心」を煽って、相手の行動変容を起こす手法です。皮肉なことに、これもトランプ流です。トランプ大統領はリンカーン・プロジェクトに自分の得意技をかけられ、それを外すことができません。


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