海野素央の Love Trumps Hate

2020年5月10日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授 心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08年~10年、12年~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年と12年米大統領選挙で研究の一環として日本人で初めてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。激戦州南部バージニア州などで4200軒の戸別訪問を実施。10年、14年及び18年中間選挙において米下院外交委員会に所属するコノリー議員の選挙運動に加わる。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。中西部オハイオ州、ミシガン州並びに東部ペンシルべニア州など11州で3300軒の戸別訪問を行う。20年民主党大統領候補指名争いではバイデン・サンダース両陣営で戸別訪問を実施。南部サウスカロライナ州などで黒人の多い地域を回る。著書に「オバマ再選の内幕」(同友館)など多数。

マスク工場を訪問して、マスクではなく、ゴーグルを着用したトランプ大統領(REUTERS/AFLO)

 今回のテーマは、「米大統領選挙とコロナファクター」です。2020年米大統領選挙は新型コロナ危機と重なり、異例中の異例の選挙となりました。演出力、コミュニケーション能力及び直観で種々の難局を乗り切ってきたドナルド・トランプ米大統領は、科学とデータ重視のコロナ対応では「強み」を発揮できません。

 米国ではコロナ感染が続く中、39の州知事が経済活動再開に踏み切りました。今後、どのような外的要因が選挙結果に影響を及ぼすのでしょうか。本稿では外的要因を「治療薬」「失業率」「高齢者の死者数」及び「第2波」に分類して分析します。

コロナ治療薬とロビイング

 米西部カリフォルニア州に本社を置く大手バイオ製薬会社ギリアド・サイエンシズ社の感染症治療薬レムデシビルが5月1日、米食品医薬局(FDA)の承認を得て、新型コロナ感染症患者に投与されることが決まりました。元々レムデシビルはエボラ出血熱の治療のために開発された静脈注射の医薬品です。新型コロナの影響を最も受けている都市の病院に配給される予定です。

 ギリアド・サイエンシズ社はC型肝炎及びHIV感染症の医薬品を開発した会社で、新型コロナウイルスの治療薬開発を「ビック・チャンス」と捉え、米議会とトランプ政権に対してロビイング活動を積極的に展開しました。米メディアによると、同社は20年第1四半期(1~3月)に245万ドル(約2億6100万円)をロビイングに投入しました。ちなみに、19年の第1四半期は186万ドル(約1億9800万円)をロビイングに費やしたので、前年同期比で約32%の増加になります。

 その効果があったのか、ギリアド・サイエンシズ社のダニエル・オデイ会長兼CEO(最高経営責任者)は3月2日、トランプ大統領及びホワイトハウスのコロナ対策チームと意見交換ができました。オデイ氏は5月2日、トランプ大統領、マイク・ペンス副大統領、対策チームのデボラ・バークス調整官等と一緒にホワイトハウスの執務室に姿を見せ、連邦政府にレムデシビル150万本を寄付すると発表しました。

 新型コロナウイルスに対するワクチン開発まで1年半ないし2年かかるといわれています。となると、11月3日の米大統領選挙の投開票日までに間に合う可能性は極めて低いと言わざるを得ません。そこでまずはコロナ治療薬を得て、感染拡大を終息させ成果を強調したいトランプ大統領と、連邦政府に治療薬を売り込みたいオデイ氏の思惑が一致したといえます。仮にレムデシビルが治療効果を上げ、手ごろな値段で入手できれば、トランプ大統領のクレジット(手柄)になるでしょう。

「失業率」と「高齢者の死者数」

 コロナ危機に直面している各国のリーダーは、ロックダウン(都市封鎖)及び外出制限による経済への影響と、経済活動再開による健康への影響の折り合い(trade off:トレード・オフ)をどのようにつけるのか、というジレンマを抱えています。米マンマス大学(東部ニュージャージー州)による世論調査(20年4月30日-5月4日実施)によれば、外出及び営業制限の解除を決定する重要な要因として、56%が健康、33%が経済と回答しました。つまり、米国民は経済活動開催に関して慎重な姿勢を見せており、経済よりも命重視です。

 にもかかわらず、トランプ大統領は躊躇せず経済優先の道を選択しました。米ABCニュースとのインタビューで、「死者が出るかもしれないが、(経済活動を)再開しなければならない」と強調しました。トランプ氏は経済活動を再開しなければ、人々は家に閉じこもり続け、薬物依存や鬱病になり自殺者が出ると反論しています。

 では、なぜトランプ大統領は経済活動再開を急ぐのでしょうか。言うまでもなく、11月3日の投開票日までに経済を復活させる必要があるからです。

 トランプ大統領は、「第3四半期(7~9月)は移行期間で、第4四半期(10~12月)は信じられないほど経済は上向き、来年はめざましい経済成長を遂げる」と、根拠を示さずに楽観的発言を繰り返します。もし投票日直前の10月になっても経済回復の兆しが見えず、失業率が10%前後であれば、トランプ再選に赤信号が点滅します。

 特に、16年米大統領選挙で民主党から奪還した中西部ミシガン州、ウィスコンシン州、東部ペンシルべニア州及び南部フロリダ州における10月の失業率は注目に値します。大統領選の終盤までコロナ感染拡大が続けば、失業率は大統領選挙の結果に影響を与え、極めて重要なコロナファクターになり得ます。

 さらに、新型コロナウイルスによる高齢者の死者数も、トランプ大統領の再選を左右するコロナファクターとして看過できません。というのは、トランプ大統領と事実上の民主党大統領候補であるジョー・バイデン前副大統領の支持者は高齢であり、バッティングしているからです。

 中でも多くの退職者が移り住んでいる激戦州のフロリダ州及び西部アリゾナ州における高齢者の死者数が、早急な経済活動再開によって増加すると、トランプ大統領は彼らを守り抜けなかったという批判を浴びる公算が高まります。仮にそうなれば、高齢者の票がバイデン氏に動くでしょう。

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