今回のテーマは、「トランプの責任転嫁と恨み」です。新型コロナウイルス感染の初動対応のまずさを非難されたトランプ大統領は、米国民の目を他者に向けるために、「オバマ責任論」及び「中国責任論」を展開しています。加えて、中国に対する心理的変化がトランプ氏に見られます。
そこで本稿では、米連邦政府から中国湖北省にある中国科学院武漢ウイルス研究所への資金援助の問題及び、トランプ大統領とホワイトハウス記者団とのやりとりを取り上げながら、「オバマ責任論」と「中国責任論」について述べます。
武漢ウイルス研究所への資金援助
米メディアによれば、国立衛生研究所(NIH)を構成している研究所の一つである国立アレルギー感染症研究所(アンソニー・ファウチ所長)が、新興の感染症研究を専門とする非営利団体「エコヘルス・アライアンス」に業務委託し、2014年から19年までに約370万ドル(約3億9860万円)の資金援助を行っていました。
この資金援助が政治問題化しています。というのは資金援助の一部が、エコヘルス・アライアンスを経由して、トランプ政権が新型コロナウイルスの発生源とみている武漢ウイルス研究所に流れていたからです。
ニューヨークに本部を置くエコヘルス・アライアンスは1971年に設立された非営利団体で、約30カ国の研究所とウイルスに関する共同研究に取り組んでいます。同団体は武漢ウイルス研究所と協力して、コウモリ由来のコロナウイルスの変異と、人への感染リスクを実験する「機能獲得調査」を進めています。
機能獲得調査は病原体の感染力を高める可能性があるため、研究所からウイルスが外部に漏れた場合、感染の大流行を引き起こすリスクがあります。仮にそうなれば、何百万人もの感染者を出します。
そこで、オバマ政権は11年に国内の全ての機能獲得調査を中止すると発表しました。代わりに、危険の高いウイルス研究を海外アウトソーシングに出すことになった訳です。
今回、国立アレルギー感染症研究所からの資金援助の一部がエコヘルス・アライアンスを経由して武漢ウイルス研究所に支払われていたことが明らかになりました。