2024年12月9日(月)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2020年6月12日

警察関係者と会談するトランプ大統領(REUTERS/aflo)

 今回のテーマは、「警察官はいらない!?」です。米中西部ミネソタ州ミネアポリスで発生した白人警察官による黒人男性ジョージ・フロイドさん(46)に対する暴行死事件がきっかけとなって、デモ活動家らの間で警察組織改革を求める声が高まっています。警察予算の打ち切りや解体といった強硬論までも議論されています。

 警察官を擁護するドナルド・トランプ大統領は、これらの強硬論に対してどのように対抗しているのでしょうか。本稿ではトランプ氏の対抗策に焦点を当てます。

「警察官擁護」の本当の理由

 黒人活動家は、繰り返し発生する警察官による暴行事件を取り上げて、警察組織全体が腐っていると議論しています。「警察官はもう頼りにならない」「警察を変えていかなければならない」と主張し、警察予算廃止及び解体に賛成の立場をとっています。

 米議会では民主党が警察改革法案を提出しました。この法案には、警察官が容疑者を逮捕する際、背後から腕で相手の首を絞めつける行為を禁止すること、武力行使するときの国の基準を設定すること、リンチをヘイトクライム(憎悪犯罪)として定義すること及び、警察官を保護する免責を制限すること、などが含まれています。

 これに対して、トランプ大統領は6月9日、警察関係者をホワイトハウスに招き、円卓会議を開いて警察に対する資金拠出の停止反対を表明しました。「警察官は99%素晴らしい人々だ」と述べて、彼らを擁護したのです。

 その理由は明白です。警察官はトランプ大統領にとって重要な支持基盤であるからです。

 参加した黒人警察官は、会議でトランプ大統領を称賛しました。トランプ氏は翌10日、今度は黒人のコミュニティーリーダーをホワイトハウスに招き、円卓会議を開催しました。そこで、黒人リーダーの1人が「我々には警察官が必要だ」と強調しました。

 率直に言ってしまえば、これらの会議は白人警察官による黒人男性暴行死事件のダメージを払拭する目的で開催された「政治ショー」です。

「政治目的」の写真

 ホワイトハウスのケイリー・マクナニー報道官は9日、記者会見で警察暴力のイメージを打ち消すために、警察官が一般市民と接している写真をスクリーンに映し出しました。

 それらは、中西部ミシガン州で白人警察官がホームレスの黒人男性の髭を剃っている写真、南部バージニア州で白人警察官が歩道に座って黒人の少女と一緒に人形遊びをしている写真、西部アリゾナ州で間違って911(日本の110番)に電話をかけた黒人の少年に食事を届けた警察官の写真などです。

 ポイントは、すべての写真が白人警察官と黒人の組み合わになっている点です。黒人警察官と白人あるいは、ヒスパニック系警察官とアジア系という組み合わせではないのです。

 マクナニー報道官はホワイトハウス担当記者に向かって、「彼らは素晴らしい。あなた方はそれを覚えておくべきだ」と述べて、記者会見を終了しました。もちろん、彼らとは白人警察官を指しています。「黒人に対する警察官の暴力のみに焦点を当てる報道はフェアでない。白人警察官は黒人を助けている」と言いたいのです。

 確かに、良心的で人間味のある白人警察官が存在するでしょう。ただ、トランプ大統領が開催した円卓会議及びマクナニー報道官が紹介した写真には、「政治目的」が色濃く出ています。

誤ったイメージ作り 

 トランプ大統領は自身のツイッターに、「急進的左派の民主党は警察に対する資金拠出を止めたい。私は法と秩序が欲しい」と投稿しました。そのうえで、「急進左派は気が狂った!」とまで書き込みました。

 実際、民主党大統領候補の指名が確実になったジョー・バイデン前副大統領は、警察予算廃止に反対しています。ところが、トランプ大統領はバイデン氏を急進左派とレッテルを貼り、有権者に対して同氏が警察予算の打ち切りに賛成しているという誤ったイメージを作ろうとしています。

 そうすることで、トランプ氏は支持基盤である警察官をつなぎとめ、バイデン氏を彼らの「敵(enemy)」にすることができるからです。加えて、「犯罪に弱いバイデン」というレッテル貼りも可能になるからです。


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