今回のテーマは、「バイデンの強みと弱み」です。11月3日の米大統領選挙まで4カ月を切り、ドナルド・トランプ大統領と民主党大統領候補を確実にしたジョー・バイデン前副大統領候補による非難合戦は激しさを増しています。
トランプ大統領に挑戦するバイデン前副大統領は、どのようなパーソナリティの持ち主なのでしょうか。経済、新型コロナ対策及び人種問題といった主要な争点を、有権者はどう捉えているのでしょうか。
また、バイデン氏の弱点と指摘されている「熱意のレベル」の低さを、同氏はどのようにして補うことができるのでしょうか。本稿では、バイデン氏の強みと弱みに焦点を当てます。
バイデンの人柄
米下院外交委員会のメンバーであるジェリー・コノリー議員(南部バージニア州第11選挙区選出)は、以前上院外交委員会のスタッフでした。バイデン上院議員(当時)は同委員会に所属していました。コノリー議員は筆者の取材に対して、次のように語りました。
「バイデンはとても好かれた上院議員でした」
そのうえで、コノリー氏はバイデン氏の過去について説明してくれました。
「1972年にバイデンは交通事故で妻と娘を亡くしました。2015年に長男を亡くしています。これらの出来事がバイデンを思いやりのある人物にしたのです。トランプとはとても対照的です」
バイデン氏は72年11月、29歳の若さで東部デラウェア州の上院選に勝利しましたが、同年12月にクリスマスの買い物に出かけた妻のネイリラさんと娘のナオミさんを交通事故で失いました。そのとき、長男のボーさんと次男のハンターさんは負傷して入院しました。
77年にバイデン氏はジルさんと再婚し、2人の間に娘のアシュリーさんが生まれました。
ところが今度は、2015年にボーさんが脳腫瘍で亡くなったのです。バイデン氏が期待していたボーさんは、06年にデラウェア州司法長官に選出され、政治家の道を歩んでいました。西部カリフォルニア州のカマラ・ハリス司法長官(当時)と親交があったといわれています。現在、ハリス上院議員はバイデン氏の副大統領候補の中で最有力候補です。
一般にバイデン氏はトランプ氏と比較して「弱いリーダー」に見られていますが、家族の悲劇を乗り越えてきた同氏は、想像以上にタフな人物でしょう。
克服の人生
さらに、バイデン前副大統領の人生において注目すべき点があります。バイデン氏には少年期からどもりがあり、同氏はそれを克服しようと努力してきました。同氏には粘り強さがあります。
政治家にとって演説は極めて重要であることは言うまでもありません。ましてや米国人の政治家であればなおさらのことです。バイデン氏にとって、どもりは最大のディスアドバンテージ(不利な点)でした。
では、バイデン氏はどのようにしてどもりを克服していったのでしょうか。
バイデン前副大統領の「人間らしさ」が出たエピソードを紹介しましょう。民主党大統領候補指名争いにおいて、バイデン氏は東部ニューハンプシャー州の州都コンコードに入り集会を開きました。そこで、どもりのある12歳の少年に出会いました。
バイデン前副大統領は自分の演説の原稿をこの少年に見せたのです。少年は米CNNのインタビューの中で、単語と単語の間に区切りがつけてあったと語りました。どもりが出ないための対策でしょう。バイデン氏はこの少年に「秘密」を明かしたのです。
加えて、バイデン前副大統領候補はこの少年にどもりに打ち勝つためのアドバイスをしました。子供の頃、鏡をみながらアイリッシュ系の詩人の詩を読む練習をしたというのです。バイデン氏はジョン・F・ケネディ元大統領と同じアイリッシュ系カトリックです。
バイデン氏はこう語ると、少年の携帯番号を聞きました。少年が練習をしているのかチェックすると伝えました。このあたりにバイデン氏のユーモアと心の温かさがをみることができます。
トランプ大統領はバイデン氏のどもりを認知症と結びつけて攻撃を加えています。大統領としての任務を遂行できない「認知度が劣った老人」としてバイデン氏を描いているのです。
トランプ大統領とのテレビ討論会で、バイデン氏は自身の強みである「人間らしさ」を自然に出すことができれば、有権者を引き付ける可能性は高いでしょう。