海野素央の Love Trumps Hate

2020年6月26日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

ニューヨークの書店バーンズアンドノーブルに平積みされた『それが起きた部屋(The Room Where It Happened)』(REUTERS/AFLO)

 今回のテーマは、「ボルトン回顧録は米大統領選挙に影響を及ぼすのか?」です。ジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)が6月23日、回顧録『それが起きた部屋(The Room Where It Happened)』を出版しました。

 ボルトン前大統領補佐官は、11月3日の米大統領選挙の前に出版することを強く望んでいたと言われています。また、ボルトン氏がドナルド・トランプ米大統領の弾劾裁判で証言を行わなかった真の理由は、回顧録の影響力を最大限にするためだったのではないかという憶測を呼んでいます。

 ボルトン氏はトランプ大統領の言動を、実に詳細に描いています。おそらく、常に所持していた黄色のノートに記した大量のメモに基づいてこの回顧録を書いたのでしょう。

 アルゼンチンの首都ブエノスアイレス及び大阪でのG20サミット(20カ国・地域首脳会合)に合わせて行われた米中首脳会談で、トランプ大統領は中国の習近平国家主席とどのような会話を交わしていたのでしょうか。ベトナムの首都ハノイ並びに南北非武装地帯(DMZ)で開催された金正恩朝鮮労働党委員長との会談の本当の目的は何だったのでしょうか。本稿ではボルトン氏の回顧録に基づいて、米中及び米朝首脳会談に焦点を当てます。

トランプの表裏

 ボルトン氏によれば、2019年に大阪で開催されたG20サミットの際の米中首脳会談で、習主席は米国の政治家が今日の米中関係を新冷戦だと呼んで、誤った判断をしていると指摘しました。トランプ大統領は政治家を民主党議員だと思い込み、習主席に賛意を表しながら同党の中に中国に対する敵意があると述べたと、ボルトン氏は振り返っています。

 その後でトランプ大統領が突然、習主席に中国経済は大統領選挙に影響を与えるとそれとなく言い、次の大統領選挙で勝つことを確実にするために、米国産の農産物の購入を熱心に頼んだというのです。ボルトン氏は、トランプ氏が農家の票と中国が米国産の大豆と小麦を購入することが重要だと強調したと明かしました。

 ただこの箇所についてボルトン氏は、トランプ大統領の正確な言葉で出版したかったが、出版前の政府による検閲プロセスの中で、別な方法で表現することになったと記述しています。

 米中西部アイオワ州及びウィスコンシン州などの農家は、トランプ大統領の極めて重要な支持基盤です。農家の票を固めて大統領選挙を有利に戦うには、中国による米国産の農産物購入が鍵を握ります。トランプ氏は昨年、演説の中で中国が米国産の農産物を大量に購入するので、農家は大きなトラクターと土地を買ったらどうかと勧めていました。

 トランプ大統領は米中貿易戦争において中国からの輸入品に容赦なく関税を課して厳しい態度をとり、表では有権者に「強いリーダー」をアピールしています。しかし裏では、習氏に「懇願」していたのです。回顧録でトランプ氏の表裏のある行動が明らかになりました。

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