海野素央の Love Trumps Hate

2020年8月11日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授 心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08年~10年、12年~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年と12年米大統領選挙で研究の一環として日本人で初めてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。激戦州南部バージニア州などで4200軒の戸別訪問を実施。10年、14年及び18年中間選挙において米下院外交委員会に所属するコノリー議員の選挙運動に加わる。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。中西部オハイオ州、ミシガン州並びに東部ペンシルべニア州など11州で3300軒の戸別訪問を行う。20年民主党大統領候補指名争いではバイデン・サンダース両陣営で戸別訪問を実施。南部サウスカロライナ州などで黒人の多い地域を回る。著書に「オバマ再選の内幕」(同友館)など多数。

6日、オハイオ州の家電メーカーでの演説を終えて拳をあげるトランプ大統領(AP/AFLO)

 今回のテーマは、「トランプの『3つの逆転戦略』」です。米大統領選挙は11月3日の投票日まで残り3カ月を切りましたが、民主党大統領候補を確実にしたジョー・バイデン前副大統領が、依然としてドナルド・トランプ大統領を支持率でリードしています。バイデン氏は中西部ミシガン州を含めた激戦6州に加え、南部ジョージア州といった共和党が強い州でも善戦をしています。

 ただ大幅リードを維持できず、逆転負けした大統領候補がいます。1988年米大統領選挙で共和党のジョージ・H・W・ブッシュ副大統領(以下当時)と戦った民主党のマイケル・デュカキスマサチューセッツ州知事です。

 デュカキス知事は、同年7月の時点で17ポイントもブッシュ副大統領をリードしていました。ところが、ブッシュ氏はマサチューセッツ州の重罪犯であるウィリー・ホートン服役囚を扱ったテレビ広告を流し、「デュカキスは犯罪に弱い」というイメージ作りに成功すると、デュカキス氏の支持率は一気に低下しました。

 結局、たった1本のテレビ広告がゲームチェンジャー(不利な試合の流れを変える出来事)になり、ブッシュ氏が勝利を収めました。

 では、トランプ大統領は一体どのような逆転戦略を練っているのでしょうか。本稿では、トランプ氏の「3つの逆転戦略」に焦点を当てます。

ワクチンをどう利用するか?

 トランプ大統領はホワイトハウスの記者団に対して8月7日、「投票日までにワクチン開発は間に合う」と述べて、楽観的な態度を示しました。

 新型コロナウイルスに対するワクチン開発と利用方法こそが、トランプ大統領の「第1の逆転戦略」です。少々乱暴な言い方ですが、ワクチンの安全性及び有効性よりも、11月3日の投票日までに間に合うのかが、トランプ氏の最大の関心事です。

 ワクチンが開発されると、トランプ大統領は以下の行動に出ます。

 まず、演説を行います。その中で、ワクチンで「中国ウイルス」を打ち負かすと語気を強めます。そして中国とのワクチン開発競争における「勝利宣言」をするでしょう。

 次に、ワクチンを手に持って記念撮影をします。記念撮影はトランプ氏にとって、極めて重要なコミュニケーション戦略です。ジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の回顧録によれば、シンガポールでの1回目の米朝首脳会談で、トランプ大統領は合意の中味よりも記念撮影を重視していました。

 では、どの州に優先的にワクチンを供給するのでしょうか。

 率直に言えば、激戦州フロリダとアリゾナに、即座にワクチンを供給するでしょう。その理由は明白です。

 両州には退職した65歳以上の高齢者が多く住んでおり、新型コロナウイルスの犠牲になっています。高齢者はトランプ大統領とバイデン候補の共通の支持層です。この年齢層における支持率で、トランプ氏はバイデン氏にリードを許しているからです。

 おそらく、トランプ大統領は共和党知事の州に速やかにワクチン供給を行い、民主党知事の州は遅らせるかもしれません。トランプ氏はワクチンを政治化し、露骨なやり方で供給時期と場所を決定するでしょう。

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