2024年12月7日(土)

立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2020年10月13日

 驚いた。『米台国交回復を推進する』『中国共産党に対抗するよう米国の援助を求める』という2本の決議案が10月6日、台湾立法院(議会)本会議に提出され、全会一致で可決された。驚いたのは、法案そのものでなく、筋金入りの親中党派とされていた最大野党、国民党から提出されたことである。国民党は従来の親中立場を放棄し、与党民進党と足並みを揃えるだけでなく、蔡英文政権に対し米国との外交関係回復を「積極的に推進」するよう求めたのである。何があったのだろうか。

(Anastasiia_Guseva)

「反中」の「中」とは?

 「反中」が世界的潮流になったのである。

 米国の大手世論調査専門機関ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)が10月6日に発表した世界規模の世論調査報告によると、多くの先進国における反中感情は近年ますます強まり、この1年で歴代最悪を記録した。

 同調査によると、反中感情を持つ14か国とその割合は、高い順番から日本(86%)、スウェーデン(85%)、豪州(81%)、デンマーク・韓国(75%)、英国(74%)、米国・カナダ・オランダ(73%)、ドイツ・ベルギー(71%)、フランス(70%)、スペイン(63%)、イタリア(62%)となっている。また、米国、英国、ドイツ、フランス、スウェーデン、イタリア、韓国、豪州、カナダの9か国の反中感情は、同機関が調査を始めてからの15年間で、過去最悪となった。

 中国に対して好感をもたない、否定的で、あるいは「反中」。では、その「中国」とは何を指しているのか。我々が普段使っている言葉の定義をしっかり規定することが大変重要だ。ピュー社の調査結果をみると、日本が世界一の「反中」国家になっている。漢字を使い、中国と同じ文化源流をもつ日本人がまさかそうした文化的意味で中国を否定しているとは思えない。

 しかも、同じ中華文化を共有している台湾や香港、その他の華人文化圏に対して、日本人が決して否定的ではないし、むしろ相互の好感度が高い。だとすれば、唯一の説明として、日本人が反感を抱いているのは、中国人・華人でもなければ、広義的な文化圏の意味における中国や中華でもなく、中国本土を支配している中国共産党にほかならない。さらに、「近年反中感情が強まり、過去1年で歴代最悪を記録した」ということも、中国共産党政権の内外政策や国際社会における姿勢の変化に由来したものではないかと思われる。

 ここのところ、米国の対中姿勢に明らかな変化があるとすれば、その1つは称呼だ。「中国」や「中国人民」と切り離して「CCP(中国共産党)」という名を使って批判している。ポンペオ米国務長官は7月23日、カリフォルニア州のリチャード・ニクソン図書館で行われた演説の中で、「中国共産党の最大の嘘は、それが14億の中国人民を代表していることだ」と指摘した。それはそうだ。いくら与党であっても自民党すなわち日本という人はいない。だから、「中国」と「中国共産党」をしっかり区別する必要がある。

 つまり、「反中国共産党」が世界的潮流になったのである。そんな中で米国の民主党も共和党と足並みを揃えて、対中強硬姿勢に徹している。それだけでなく、時には両党がお互いにどちらが中国にきつく当たれるかを競い合いさえしている。「反中国共産党」が米国内においてはすでに超党派の「コモンセンス」になっているわけだ。

 一方、台湾では、対中強硬路線を持つ与党・民主進歩党(民進党)と親中派で最大野党の国民党という二大政党が戦ってきた。世界が急激に変わるなか、台湾のこの政治構図が奇異でさえある。今年1月の台湾総統選で、国民党の公認候補として出馬し、現職の蔡英文総統に大敗した韓国瑜・高雄市長は後日、リコール(罷免)投票で職を追われた。反中に大きく傾いた台湾国内の民意に答えられずに、国民党は大やけどしてきた。


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