立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2020年8月25日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

 米台国交樹立は決して幻ではない(参照:『米台国交樹立も視野に、トランプ対中闘争の5つのシナリオ』)。ただ理屈では分かるのだが、最大の障害はなんといっても、中国。実際にいざ米国がその一歩を踏み出した途端に、台湾海峡戦争を惹起するのではないかという懸念がある。つまり、中国が台湾を侵攻することだ。では、米台国交樹立の3つのシナリオを描いてみよう。

(Yurchello108/gettyimages)

台湾侵攻、中国が戦争をするシナリオ

 戦争シナリオ。「台湾は中国の不可分の一部」というのが中国共産党政権の譲れない一線である。この文脈からは戦争が不可避という結論が導き出される。ただ実際に中国は戦争に踏み切れるかというと、必ずしも肯定的とは限らない。「戦争をしない」に9つの理由があって、「戦争をする」には5つの理由がある。紙幅の都合上詳細説明を割愛して列挙する。

 まず、戦争をしない9つの理由をみてみよう。

  1. 中国軍は実戦経験が少なく、戦勝経験もほとんどない。
  2. 海戦(台湾海峡・南シナ海)の難題や高原地帯(インドの場合)の難題(補給・兵站)。
  3. 一人っ子世代による軍人の構成、戦意の欠落。
  4. 軍もビジネスの世界にどっぷり浸かっているため、経済的利益の喪失を恐れている(例:米国による個人制裁のリスク)。
  5. 習近平が軍権を独り占めしているため、前線・現場の即時決断ができず、戦争に必要なスピード感を出せない。
  6. 海外の反中反共ムードの醸成。
  7. 軍事(技術)力の実態に疑わしきものが多く、米国との対戦に勝ち目が薄い。
  8. 経済低迷、米中貿易戦争によるダメージが大きく、中国は財政難に直面しており、戦争に必要な財力が欠落している。
  9. 戦争に負けた場合、習近平は失脚、政治的生命を断たれる危機に直面する。

 次に、戦争をする5つの理由を列挙する。

  1. 中国共産党内の権力闘争や情報伝達の寸断、情報操作がトップの意思決定に悪影響を与え、決断ミスをもたらす。
  2. トップの狂気、賭けに出る。
  3. 偶発的事故による軍事衝突の発生、局所的戦闘の拡大。
  4. 米国による台湾の国家承認、米台国交樹立。
  5. 複合的状況の形成(中共中央対外連絡部前副大臣で中国人民大学重陽金融研究所の主任研究員周力氏論文『外部環境の悪化に向けて6つの準備に取り組め』より抜粋引用)①米中関係の悪化と闘争の全面的なエスカレート、②輸出の縮小、産業チェーン・サプライチェーンの寸断、③コロナの再拡大・常態化、④米ドルからの切り離し、人民元とドルの段階的デカップリング、⑤食糧危機の発生 など。

 戦争をする5つの理由を否定するわけではないが、上記天秤にかけて総合的に判断すれば、戦争は決して理性的な選択でないことが自明の理である。さらに中台双方の軍上層部からそれぞれ「不打第一槍(一発目を撃たない)」の命令が出されているという報道もある(8月19日付、sohu.com海峡導報社)。これは特段の前提が設けられていなければ、基本的に戦争放棄の決断とみるべきだろう。

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