2024年4月27日(土)

立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2020年8月25日

中国が米台国交樹立を黙認するシナリオ

 中国に残される最後の選択肢は、米台国交樹立を黙認することだ。中国は「台湾独立」に反対している。米国が声をかけて台湾と国交樹立した場合、台湾は何も独立宣言をするわけではない。到底「台湾独立」といえない。単に「中華人民共和国」と「中華民国」の2つの「政府」が実体として存在している事実を認めたに過ぎない。言い換えれば、「1つの中国、2つの政府」、つまり「一国二政府」ということだ。

 陳水扁が2000年台湾総統に当選した際、当時の連戦中国国民党主席は「一国二政府」に基づく連邦国家構築の構想を打ち出したことがある。これに対して中国側は肯定も否定もせずノーメントの姿勢で、香港式の「一国二制度」がより理想的な案として提示した。

 これをみる限り、「一国二政府」と「一国二制度」の類似性が浮上する。政府がなければ、制度も存在し得ないわけだから、当たり前といえば当たり前だ。問題は「政府」の中身だ。それが「中央政府」と「地方政府」の関係であれば、自己矮小化につながるため台湾は受け入れないだろう。逆に対等関係にある2つの「中央政府」と位置づければ、これは恐らく中台双方が受け入れられる最大公約数的な落とし所ではないだろうか。

 中国と香港の関係も「一国二政府」の関係であり、ただその前提に「一国二制度」があって「中央政府」と「地方政府」の関係も明確であるから中国は問題としていない。では、台湾の場合はどうであろうか。

 まず台湾政府の存在は争われない事実である。次に、中国は台湾政府の違法性を主張できない。違法性があるなら、通常の外交活動を行うことができないからだ。最後に台湾を地方政府と位置づけることができるかというと、これも無理。今までの経緯をみても明らかであるように、台湾は歴然とした中央政府として中国と対話してきたのである。

 一方、中国も台湾が「中央政府」であることを黙認してきた。ただ、「中華民国政府」という表現を使っていない。それだけの話だ。中台両政府間の交渉は、海峡両岸関係協会(中国側)と海峡交流基金会(台湾側)という2つの政府間交渉窓口機関を通して行われてきた。両機関の間に合意・調印された数多くの協定は政府間協定以外の何ものでもない。

 米国が台湾承認して米台国交樹立したら、これはすなわち「1つの中国」の崩壊、結果として中国は台湾侵攻を発動し、平和が崩壊する。というのが世間の一般的な認識だが、必ずしも当てはまらない。ゼロサムを回避するうえで、落とし所を見つけるのが政治の役目である。今は、政治家の英知が求められている。


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