立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2020年8月3日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

 世界を驚かせる出来事。トランプ米政権は突然、ヒューストンの中国領事館に閉鎖命令を出した。続いて、ポンペオ米国務長官は7月23日、カリフォルニア州のリチャード・ニクソン図書館で、これもまた世界を驚かせた演説を行い、中国人民に好意や同情を寄せながらも、「中国共産党」による「新たな暴政」の脅威に対抗するよう「自由主義の国々」に呼び掛けた。風向きが大きく変わった。

(tang90246/gettyimages)

「新ニクソン・ショック」

 ここのところ、米国の対中姿勢に明らかな転換がみられ、その1つは称呼だ。「中国」や「中国人民」と切り離して「CCP(中国共産党)」という称呼が意図的に使われるようになった。ポンペオが演説のなかで、「中共の最大の嘘は、それが14億の中国人民を代表していることだ」と指摘し、「党国一体化」の支配戦略に取り組んできた中国共産党に真正面から攻撃を仕掛けた。

 ポンペオがニクソン図書館で演説したのも意味深長だ。1972年2月21日に米国大統領リチャード・ニクソンが中華人民共和国を初めて訪問し、毛沢東主席や周恩来総理と会談して、米中関係を和解に導いた。これが1つの新時代の幕開けとなり、あまりにも突然な出来事で、「ニクソン・ショック」と呼ばれている。

 ニクソンが期待していたのは、中国が西側諸国と付き合い始め、徐々に経済的に豊かになれば、民主主義への変貌を遂げ、自由世界に溶け込んでいくという将来像だった。しかし、善意が冷酷な事実に否定され、中国は期待通りにならなかった。それどころか、自由世界に中国共産党のルールを押し付け、支配を狙った。つまり、ここまできて中国共産党政権と西側とはイデオロギー的に相容れない、相互協力し融合的な関係を築くことが絶望的になったことが実証されたのである。

 ポンペオはその講演中にこう語った。「我々は中国を迎え入れようとしたが、中国共産党は我々の自由で開かれた社会のルールを悪用し、知財を窃盗し、多くの雇用を奪い、国際ビジネス取引の安全性を引き下げた。…中国共産党は我々の自由まで侵食し、法の支配と秩序を覆していく。これに屈服すれば、危害が我々の子孫にまで及び、自由世界への最大の脅威である中国共産党の望む通りの世界ができあがってしまう」

 ニクソンが期待していた通りに中国は変わることがなかった。逆に中国共産党は西側の我々を変えつつある。だから今、我々が直面するのは、我々が中国によって変えられていくかそれとも中国を変えるかの選択である。

 「君以此始、必以此終」。漢文の古典(左伝)で、「ここに始まれば、必ずここに終わる」という意味だ。

 1972年のニクソンの訪中が「始まり」だとすれば、ほぼ半世紀が経った2020年、このニクソン図書館で行われたポンペオの演説はまさに「終わり」の宣告になる。「新ニクソン・ショック」と名づけてもよさそうだ。

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