2022年11月30日(水)

立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2020年8月3日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

大統領選挙までありとあらゆる手段を動員する

 次に法律面、コロナの賠償問題。

 トランプにとって米中貿易協定はもうほとんど意味をなさない。中国発のコロナで米国はすでに15万人以上の死者を出している(7月28日現在)。トランプが大統領就任後に築き上げた国内経済や雇用の好成績はすべて台無しにされた。コロナ被害の清算や賠償請求は米国1国にとどまらない。中国当局による「人から人感染」を隠蔽した事実に証拠が固まっていれば、米国は先頭に立って、責任追及と損害賠償の請求に乗り出す公算が大きい。

 国際民事訴訟における障害は、主権免除。被告が国の場合、外国の裁判権から免除されるというもの。そこで、米国は主権免除の取り消し、または国家でなく団体組織である中国共産党相手の賠償請求、さらに指導部を含む中国共産党関係者らの米国ビザ取り消しや米国内の資産凍結といった選択肢を検討している。資産凍結は実務上、制裁効果が大きくコロナの民事賠償と相殺することも可能であるから、有力なツールとなり得る。

 3番目は軍事行動、南シナ海における実力行使。

 トランプ政権が従来の中立的な立場を転換し、7月13日の声明で南シナ海の海洋権益に関する中国の主張を「完全に違法」と否定し、南シナ海アタックのための布石を打った。台湾海峡と南シナ海、軍事行動を繰り広げる場所を選定するにあたって、米側にとって後者のほうが都合がいい。民間人を巻き込むこともなければ、本格的な上陸作戦もない。本国(大陸)からの遠距離海上戦であるため、むしろ中国に不利だ。そして南シナ海の戦闘は何よりも、海南島の中国原子力潜水艦基地を潰すのが米国にとっていちばんメリットが大きい。付け加えると、南シナ海ないしマラッカ海峡で中国に対する石油禁輸も検討に値する措置である。

 4番目は金融面、香港ドルのペッグ制を崩壊させれば、香港や本土が金融パニックに陥る。ただでさえ、いま中国の外貨準備が減少しているのに、泣き面に蜂状態に追い込まれる。

 最後に、情報戦。中国の情報統制、ネット遮断にあたるグレート・ファイアウォールを無効化することだ。技術的に可能とされるこの「壁撤去作業」は、予算さえ組めば実現できる。中国共産党政権がそれだけ大きな予算を投入し、厳しいネット遮断・検閲を行っているのも、情報開放の「怖さ」を自ら証明している。海外情報に接した中国人民がどのような反応をするか、政権の基盤を揺るがしかねない。

 5つのシナリオを描いてみたが、決してこれらが個々単独でなく、複合的に動員され、同時進行の可能性もある。というのは、トランプは大統領選挙まで残された3か月という期間にありとあらゆる手段を動員しなければならないからだ。対中強硬姿勢を恒久化すれば、トランプが仮に落選しても歴史に名を残せる。

 つまり、仮にバイデンが大統領になっても、トランプの反中路線を踏襲せざるを得ない状況を作り上げることだ。最近米国メディアにもよく使われる「Point of no return」という表現、「復帰不能点」を確実に設定しておけば、トランプの目標が達成できる。昨今、香港や台湾、ウイグルの関連法案が米議会で次々と圧倒的多数で可決されている。反中共はむしろ、超党派的な合意となった以上、たとえバイデンであっても逆らうことができまい。

 極端な話だが、トランプが残された任期中に台湾を承認し、米台国交を樹立した場合、バイデンが大統領の座に就いた途端、米台断交に踏み切れるかというと、無理な話であろう。

  
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