立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2020年1月9日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告が密出国した事件で、計画に関与した人物がその約3カ月前に関西国際空港を訪れ、警備に大きな抜け穴があることを確認していたとメディアに報じられている。ふと思い出したのは私自身の体験、3年前に日本国内某A地方空港の国際線ターミナルでの出来事。

 2016年12月某日、私は日本出張を終え、次の出張先である上海に立ち寄ってから居住地のクアラルンプールへ帰還するため、A空港国際線ターミナルを利用した。その際、同ターミナルの保安体制に重大と思われる瑕疵があったと認識し、空港保安警備会社B社と空港警察の現場担当者に懸念を繰り返し申し出たにもかかわらず、真摯な対応を得られなかった。

(Dynamic Graphics,2007/getty)

受託手荷物保安検査上の重大なリスク

 民間航空機の乗客荷物の保安チェックは通常、預け入れ荷物(受託手荷物)と機内持ち込み荷物と大別される。私が今回問題提起したいのは前者である。

 私は海外に住んでおり、数多くの国際空港を利用した経験からいうと、一般的にチェックインカウンターで荷物を預け、その荷物がカウンター内部に設置されたX線検査を受けるような仕組みになっている。

 しかし、A空港国際線ターミナルでは、以下の独自の保安検査形態を取っている――。

①チェックインカウンター外のX線検査を受けたうえ、小さな「チェック済み」シールを荷物の開口部に貼り付ける。→ ②乗客がその荷物を一旦受け取り(乗客の保管下に置かれる)、チェックインカウンター前で列をなして、チェックインを待つ。→ ③チェックイン手続して荷物を預ける。

 問題は上記の②。「チェック済み」の荷物が再度乗客の手に渡る。カウンター預けまでの間に乗客や第三者が何らかの方法によって危険物を混入させる可能性があるからだ(私が思いつく手法は何通りかあるが、安全上の理由で、ここでは公開しない)。私の懸念の正当性を確認するために、私とその現場にいた保安検査担当者Cさんとの間で、以下の旨の会話が交わされた。

私 「預け入れ荷物は通常、チェックインカウンターのなかで保安検査をします。このように、外で検査して、検査済みの荷物がもう1回乗客の手に渡って、チェックインカウンターの前で列をなして待っている間に、異物混入とかのリスクはありませんか」

保安C 「われわれは、その列を監視、チェックしていますから、問題ありません」

私 「その監視、物理的にできるんですか。安全性をあなたたちが保証しますか」

保安C 「いや、ですから、われわれはやっていますから」

私 「やっているのとできるのと話はぜんぜん違います。それよりも、チェックインカウンターのなかで検査したほうが安全性が高いんじゃないですか」

保安C 「いや、ここはチェックインカウンターの中には検査の機械がありません。外部に設置しているのですから、外部でやるしかありません」

私 「内部に移設すればいいでしょう」

保安C 「それは、できません」

私 「どうしてできないんですか? 安全性向上のための改善だし、運営合理化にもつながりますが」

保安C 「申し訳ありませんが、それはちょっと、できません」

私 「あなたたちの仕事がなくなるからでしょう。それだけのことでしょう」

保安C 「はい」

 そこまであっさりと素直な肯定を得られるとは、正直私は予想しなかった。もし本当にそうであれば、それは大問題だろう。そこで、私は検査済みシールを張られた荷物をもって、チェックイン待ちの列に並び、観察を続ける。

 保安員Cさんが言っているような「検査済み荷物の継続監視」は、まったく感じられなかった。いや、むしろ不可能だろう。雑多な乗客が列をなしているなか、数メートルないし十数メートルも離れた検査場の保安員が監視の目線を届けることは困難である。そのうえ、保安検査場の担当保安員4名は検査やシール張り、問題荷物の開梱検査に専念している以上、物理的に余裕もなく、継続監視は不可能だろう。

 一方、隣のチェックインカウンター担当の保安検査場では閉鎖中のため、待機中の保安員数名が談笑している。私はその保安員たちに聞いてみたら、どうやら保安警備担当のB社の契約先(航空会社?)が違うため、メンバーの相互応援協働はできないようだ。

 空の安全、乗客の安全。そのために最大の努力や最善を尽くすのが、空港保安警備業務の第一義的責任であろう。しかし、そのための姿勢や意欲、私にはその欠片も感じられなかった。

 まだこれだけではない。問題はここから芋づる式に出てくるのである。

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