2024年12月22日(日)

立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年10月31日

暴力が是認されている?穏健派と過激派の不思議な関係

 香港デモの参加者は、穏健派である「和理非派」(平和・理性・非暴力の頭文字を取った名前)と過激派にあたる「勇武派」に分かれている。異なる理念や立場から対置される両派はいささか対立しているかのように思われがちだが、事実はどうであろうか。

10月20日香港・九龍で行われるデモ現場(筆者撮影、以下同)

 香港中文大学とジャーナリズム・コミュニケーション学院が実施した『反「逃亡犯条例」運動現場調査』(2019年6月から8月まで合計12回のデモ現場アンケート調査)のデータ(抜粋)を引用して説明したい。

▼ 回答者分類

 (1) 学歴:大卒以上77.8%

 (2) 階級:中産階級58.8%、下層階級33.2%

 (3) 政治的立場:香港本土派39.5%、温和民主派35.1%、急進民主派9.4%

▼ デモの後続行動について

 デモをエスカレートさせる=54.1%

 現状維持・デモの定期化=38.7%

 運動の一時中止・社会回復=1.9%

▼ 平和・理性・非暴力デモはすでに機能しなくなった。

 そう思う=42.1%

 そう思わない=32%

▼ 平和な集会・デモと急進的過激行動の交互実施による相乗効果の最大化

 強く賛成=65.7%

 賛成=22.8%

 反対=1.7%

 強く反対=0.2%

▼ 民意に耳を傾けない政府に対する過激な行動を理解できる。

 強く賛成=79.4%

 賛成=13.7%

 反対=0.3%

 強く反対=0.9%

 まず、回答者分類をみると、必ずしも生活苦に喘いでいる社会の最底辺による抗議活動ではなく、むしろ大卒以上の高学歴者と中産階級が大半を占めていることが分かる。実際にデモ現場で配布されているビラや街中の落書きを確認したところ、英語も中国語も概して一定レベルの表現力や修辞技法が見られ、この分類結果と符合しているように思える。政治的立場においては、やはり急進・過激層が1割を切っており、少数に過ぎない。これも現場観察の結果とほぼ一致している。

 次に、「デモの後続行動について」。エスカレート指向が54.1%という過半数を占めている。いわゆる「エスカレート」とは、平和・理性・非暴力をベースにしたものか、それとも「勇武派」の暴力活動を意味するか、読み取れない。ただ別項設問の「現状維持・デモの定期化」との対比関係からすれば、ここの「エスカレート」はやはり過激化に読み替えざるを得ない。

 いよいよ踏み込んでいく。平和・理性・非暴力デモはそもそも役に立っているかという質問に、「ノー」の回答が「イエス」を明らかに上回っている。これはある意味で「デモの過激化を希望する」回答を裏付ける形になっていると言っても差し支えないだろう。

 さらに、「平和な集会・デモと急進的過激行動の交互実施」という方向性提案に強く賛成が65.7%、賛成22.8%と合わせると9割近くの賛成派がおり、これに対して反対派はわずか2%弱にとどまっていることが分かる。

 最後に、「民意に耳を傾けない政府に対する過激な行動」について、強く賛成がなんと8割、賛成層は合計して93%にも達している。上と同じように、反対派は2%を切っているというごく少数の状況である。

デモ現場を取材する各国のメディア

 この調査結果について、少々乱暴な解釈をすると、大多数の「和理非派」と少数の「勇武派」の分類は、あくまでも実際の行動をベースにしたものに過ぎず、実はほとんどの「和理非派」は論理的にも心情的にも、「勇武派」を認めているのであり、ただ自分たちが過激な行動に加わっていないだけの話である。

 言い換えれば、「勇武派」の行動は現行法に照らして違法性が明らかであるにもかかわらず、大多数の民意が得られているのである。だとすれば、政府の姿勢や統治手法、あるいは法の性質などに関して、問題の有無を検討する必要が生じる。


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