立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2020年1月7日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

 ついに逃げた。日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告はプライベートジェットに乗ってレバノンに逃亡した。大手メディアから個人SNSまで世間は騒然とした。嵐のような報道を眺めていると、やはり「逃げ」というキーワードに世論の関心が集まったようだ。あえて善悪論を別として、少しばかりアングルを変えて、ゴーン氏の事例を引き合いに、「逃げ」を経済学的な大所高所までいかなくとも、ビジネス界あるいは個人の損得勘定といったところから、2、3の観点を提示したいと思う。

ベイルートにあるゴーン氏の自宅(Abaca/AFLO)

「逃げ」はプロの仕業である

 まず、大方の関心が寄せられているゴーン氏の「逃げ方」。

 楽器の箱に隠れてとか何とか、ゴーン氏の逃げ方がどうであれ、まず日本はザルのような危ない国であることだけは証明された、という意見があるが、概ね同意する。世界を旅しいろんな国に行っているが、日本ほど「性善説」的な国はほかにない。この話を取り上げると長くなるので、別の機会に譲りたい。

 とはいっても、一国の出入国検査をすり抜けて国外に逃亡するわけだから、相手が堂々たる国家公権力であるから、そんな簡単なことではないはずだ。

 ゴーン氏は保釈中で東京の住所が監視下に置かれている。そのうえ、彼は外国人で特徴のある人相をしており、しかも超有名で渦中の男である。自宅から抜け出すだけならまだしも、東京から関西空港までの540kmの距離をどう移動するか。飛行機や新幹線といった公共交通機関は使えない。車の移動だと、6~7時間もかかる。

 さらに関西空港では飛行機に乗るための諸手続にも時間がかかる。離陸してから日本の領空から出るまでの間に大きなリスクを抱えている。いざ自宅から失踪したことが露見した場合、当局が直ちに緊急措置を取るだろうから、そこで脱出計画が水泡に帰す可能性もある。飛行機が離陸してからの通過空域も関連国当局と日本の連携があった場合も大きなリスクだ。もちろん、乗り継ぎ地のトルコも安心できない。

 だから、楽器箱に隠れてプライベートジェットに載せられて逃げたとか、そういう簡単なことではない。プロ軍団の助けをなくして逃げることができない。報道では「民間警備会社」が係っていたとされているが、一民間警備会社がこの逃亡計画を見事に遂行し、成功させるとはとても思えない。逆にそれがある種のカモフラージュなのかもしれない。

 ゴーン氏は以前ルノー内部のDPGという部門に係わっていたといわれている(1月3日付、仏ル・ポワン誌)。「DPG」とは、「集団保護部」で企業のなかにある、CIAとFBIが合体されたような組織(部門)である。メンバーは、国家情報機関のOBといったプロから構成されているという。まさに「プロ軍団」。逃亡事件はもちろん、国家は関与しないわけだが、しかし国家級のプロが民間レベルで係わることが可能であろう。

 思うに、楽器箱とかそういう興味本位のネタは、本当かもしれないし、嘘かもしれない。真実を闇に葬らせるために、意図的に流したカモフラージュ的な偽情報という可能性もある。だとすれば、情報操作担当のプロも欠かせない。

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