立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2020年10月13日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

 悪臭を放つ沼に生まれた「親中派」

 中国共産党に中国大陸から追い出された国民党はなぜ、親中なのか。

 戦後の国共内戦で毛沢東率いる中国共産党に敗れて1949年に台湾へ移った蒋介石は反共だった。当時の国民党は、中国共産党を匪賊扱いで「共匪」と呼んで、大陸反攻を国是とする反共政党だった。大陸反攻を国是としたのも、台湾はあくまでも仮住まいでいずれ中国大陸を奪還し、正統政権として全土支配する意志があったからだ。蒋経国総統時代になっても、中国共産党とは「接触しない、交渉しない、妥協しない」という「三不政策」が基本方針であった。

 蒋介石がその著作『蘇俄在中国(ソ連が中国にあり)』に警告を発した。「共産党と交渉するいかなる政治家も国家も、自ら墓穴を掘るも同然。……交渉はいつまでも結果が出ず、引き伸ばし戦術は共産党の一種の作戦方法だ」。「三不政策」だけでなく、昨今トランプの「対話をしない」「棲み分けする」、つまり米中デカップリング政策も、共産党を知り尽くした蒋介石の理論を土台にしている。

 変化が生じ始めたのは80年代後半。台湾と大陸の通商・経済交流が徐々に拡大していく。国民党と共産党のイデオロギーにおける本質的な相違を棚上げして経済的利益を先行させた。その結果、経済の中国依存が進み、中国大陸をなくして台湾は生きて行けない段階にまで至ったのである。これは何も台湾に限った話ではなく、日本も欧米も同様といえる。

 問題は、「中国依存」の恩恵が広く全国民に行き渡らなかったことである。中国共産党政権の「統一戦線」は決して、相手国の一般国民を対象にしているわけではない。政財界のいわゆるキーパーソンを味方につける手法が取られるため、結果的に一部の特権階層が利益を手にしただけで、全体的国益が軽視・無視されてきたのである。

 トランプ政権の下では、「ドレイン・ザ・スワンプ」という標語が打ち出された。「スワンプ」とは、悪臭を放つ沼のことだ。腐敗した穢い黄濁な泥水が溜まっている。その中に蛭やトカゲや毒蛇がうじゃうじゃにょろにょろと這い回って棲息している。そこで排水溝やバキュームカーのような排水設備(ドレイン)を用いて汚水を抜き取り、排出させることだ。

 そうすると、いよいよ穢い沼底に棲息していた蛭やトカゲや毒蛇が姿を現し、これらを太陽の日差しに当てて天日干しにして日光消毒を行い、すべて殺してしまうということだ。泥沼の傍で、トランプがバキュームカーで泥水を抜き取っているという政治風刺画がある。チャイナマネーによって汚染されたワシントンやウォール街の既得権益層にトランプがターゲットを絞った。

 皮肉にも、自由民主主義国家の政財界が社会主義独裁国家によって汚染された。それは社会主義や共産主義に赤化されるのではなく、資本主義制度下で増殖・変異した「唯物的」な拝金主義ウイルスが巧妙に利用されたのである。このメカニズムは長きにわたりグローバリゼーションという大義名分の下で温存されてきた。誰もが気付かなかった。気付こうとしなかった。気付いても口に出して言えなかった。

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