「Go To トラベル」は何も日本だけの話ではない。私が住んでいるマレーシアも似たような、非公式的な「Jalan Jalan」(マレー語:散歩する)キャンペーンに取り組んでいる(参照:『マレーシアの「本物ロックダウン」現場から見た日本』)。私は取材をかねてここ2か月に4度も国内旅行に出かけていた。9月以降もボルネオ島(東マレーシア)などの遠方を含めて旅の予定を立てている。コロナで特に大きなダメージを受けた観光業や外食業の現場で何が起きているのか、マレーシア各地での見聞を数回分けてお伝えしたいと思う。
閑古鳥が鳴く、マラッカの世界遺産に人影まばら
全体的印象から言うと、業界の明暗がはっきり分かれている。
8月上旬、マラッカ視察に出かける。マラッカはペナン島のジョージタウンとともに、2008年に「マラッカ海峡の歴史的都市群」としてユネスコ世界文化遺産に登録され、人気の観光地である。
その中でも、観光客が必ず訪れるのは、ジョンカーストリート。歴史的建築物を生かして作られたレストランやカフェ、土産物屋、ブティックがぎっしり軒を連ねている。一方通行道路ながらも、年中交通渋滞が常態化し、私が数年前に訪れたときも、観光客が大挙して押し寄せ、押すな押すなの大混雑だった。
しかし、このジョンカーストリートはいま、人影まばら。「社会的距離」を数十メートル以上開けてマスク姿の観光客が数組淡々と散策している。店も半分以上シャッターが下ろされており、食事やショッピングといっても、チョイスが限られているので、観光らしい観光すらできない。何と寂しい風景だ。
幸い好物のエッグタルト屋さんが辛うじて営業しているので、翌日まで食べられる分を大量購入。そういえば、同じポルトガル植民地だったマカオも、エッグタルトが濃厚な風味で美味しい。
昼食の時間だ。食事の場所は決まっている。マラッカ名物鶏料理店の「和記」。しかし、いつもの長蛇の列がない。中に入ってみると、ガラガラに空いている。客は2組しかいない。混み過ぎるのは嫌だが、程よい「消費ムード」が必要だ。あまりにも客の少ない店だと、気分が盛り上がらない。これも消費の委縮を招く連鎖的な要因かもしれない。
鶏料理は相変わらず美味しい。そしてマラッカの名物は、「鶏飯粒」――チキンライスボール。お馴染みの「海南鶏飯」は鶏スープで炊きあげられた「鶏汁炊き込みご飯」だが、「チキンライスボール」とは、このご飯が熱々のうちにギュッと団子状に握りしめる、いわゆるおにぎり式チキンライスなのである。
腹いっぱい食べて、帰宅後のつまみに1羽分を切って包んでもらい持ち帰り。さあ、これ以上粘っても面白くないから、帰ろうと、車を駐車したカーサ・デル・リオ(Casa del Rio)に向かう。ジョンカーストリートに至近距離にある大型ホテルは、ここだけ。広々としたパーキング・ロットに、何よりも屋根付きだから炎天下でも車内が暑くならない。
驚いたことに、ホテルの駐車場はなんと出入り自由。つまり駐車無料だ。念のため、ホテルのスタッフにも確認してみたが、コロナ期間中は特別無料にしてあると。それでは申し訳ないので、ホテルのカフェでお茶でもして帰ろうかと行ってみたら、これも閉店中……。
マラッカのような世界文化遺産はなんといっても外国人に絶大な人気を誇る。インバウンド全盛期の寵児がいざ外国人観光客が消えると、この惨状になるとは想像すらできなかった。外国人にとっての「非日常的」な景色は地元のマレーシア人からみれば日常の一部にすぎず、わざわざこの時期に観光で訪れる必要性を感じない。そういうギャップがあったかもしれない。