2024年4月26日(金)

立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2020年8月29日

マレー半島東海岸、高級リゾートの大繁盛ぶり

 閑古鳥が鳴く世界文化遺産を後にして、車でマレー半島東海岸のリゾート地に向かう。

 何もコロナのせいではない。マレー半島の東海岸は年中寂れている。交通が不便で有名な観光地はほとんどない。ペナンやらランカウイやら観光客が押し寄せる「人気スポット」はみんな西海岸に集中している。交通の便がよく国際空港も整備されている。海外から観光客が簡単にアクセスできて観光業は発達している。

マレー半島東海岸のビーチリゾート

 しかし、海の美しさからいえば、西海岸のマラッカ海峡よりも東海岸の南シナ海が格段に上だ。西海岸のペナンやランカウイなどは、正直言って海が汚すぎる。泳げたものではない。東海岸は違う。海が美しい。特にティオマン島やレダン島、ペルヘンティアン島などの離島。以前、ティオマン島とレダン島へは、クアラルンプールのスバン空港からプロペラ機の定期便が乗り入れていたが、それが数年前いずれも路線休止となった。おそらく搭乗率が悪かったからだろう。

 もう1つの原因はモンスーン。マレー半島東海岸は、11月~3月にかけては北東モンスーンの来襲で雨量が激増し、波が荒いため遊泳は不可。一部の宿泊施設はモンスーン季節中に完全閉鎖となる。要するに、観光業として年間の半分近く稼働できないので、効率が悪いわけだ。現代資本主義の経済は基本的に効率第一であるから、非効率性は排除される。裏返せば、マレー半島東海岸はその非効率性で開発の荒波から逃れたといっても過言ではない。

 私が投宿した東海岸の某Aリゾートはまず、チェックインしても部屋の清掃が終わっておらず1時間以上待たされる。平日なのに、客がたくさん来ているということだ。それにしても早く着いて良かった。1~2時間も遅れたら、駐車場が満車になっていた。後からみると、ホテルの正面エントランス周辺から通用口まであらゆるスペースが宿泊客の車で埋まっていた。

Aリゾート構内風景

 ところが、夜になって見渡すと、すべての客室に電気が点灯しているわけではない。ざっと見て稼働率は7~8割程度。なのに、なぜ駐車場だけが満車かというと、国内客はみんな自家用車を利用するからだ。ホテルは設計上、タクシーやハイヤーを利用する外国人観光客を一定の割合で計算しており、宿泊客全員が自家用車で来館することを想定していないからだ。異常事態の発生だった。

 このAリゾートは数年前に一度泊まったことがある。当時の宿泊料は若干の割引が効いて1泊2万円程度だったと記憶しているが、今回はちょうどその半分、1万円(いずれも朝食込み)。正規価格からすれば概ね60%オフの割引だった。もちろんその分国から補助が出ないのだから、ホテルはコスト削減や飲食などの館内消費で利益を捻出せざるを得ない。

Aリゾート客室

 スタッフの人数削減による副作用は、客室清掃業務の遅れやビーチサイド待機スタッフの巡回回数の減少などからも現れている。やむを得ない。消費者としてこれだけ安い料金で泊まるのだから、引き換えにある程度の不自由を受け入れるべきだろう。つまり、サービス品質の低下は消費者合意の下で行われるということだ。

 日本は、サービス品質についていえば世界でも稀に見る均一化している国である。商品やサービスのグレードに関係なく、どこへ行っても、丁寧なサービスを受けられる。海外は違う。大方の消費者は商品・サービスのグレード(価格にも反映されている)で目線・判断基準を使い分けている。

 日本社会では、「付加価値」が基本的に善とされている。しかし「付加価値」は裏返せば、サービス提供者にとって一種の「付加コスト」でもある。不況やデフレ、あるいは昨今のコロナ禍によって価格が下落した場合でも、消費者が従来と変わらないサービスのレベルを求め、かつ業者もそのつもりで運営しているのであれば、必ず働く従業員にしわ寄せが及ぶ。しばしば従業員が過酷な労働環境に置かれ、ブラック企業が生まれる原因の1つにもなりかねない。

 マレーシア版「Go To トラベル」の現場、明暗が分かれている。たとえ客が入ったとしても、自主的割引や防疫コストの負担によって必ずしも経営が楽というわけではない。業者が軒並み苦闘している。次回は外食業の現状を追ってみたい。

  
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