2024年12月15日(日)

立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2020年9月1日

 マレーシア政府は、8月31日を期限とするコロナ回復期活動制限令(RMCO=Recovery Movement Control Order)の12月31日までの延長を発表した。厳しいロックダウン(参照:『マレーシアの「本物ロックダウン」現場から見た日本』)を経て一応国内における感染の拡大を抑え込んだ。8月下旬現在、毎日の新規感染確認件数は1桁を中心に一進一退し、概ね安定している。

 一方、深刻なダメージを受けた観光業や外食業、小売業は依然として厳しい状況にある(参照:『マレーシア版「GoToトラベル」、現場で何が起きているのか?』)(『マレーシア版「GoTo外食」、常識を覆す飲食店の繁盛ぶり』)。国境の街ランタウ・パンジャンを取材してみた。

ゴーストタウン化した国境の街

 8月15日午前、マレー半島東海岸最北の主要都市コタバルから車でタイ国境を目指して北上する。国境の街ランタウ・パンジャン(Rantau Panjang)までは30km。1時間弱のドライブでマレーシアとタイの国境に到着。

閉鎖中のランタウ・パンジャンのマレーシア・タイ国境(筆者撮影)

 前日、ホテルのコンシェルジュにランタウ・パンジャンへの行き方や現地の状況を確認すると、「タイへは行けませんよ。国境は閉鎖中で通過できませんし、国境地帯の店もほとんど閉まっているから、何をしに行くんですか」と不審に思われたらしい。ランタウ・パンジャンの観光にいく観光客は誰もいないようだ。

 現地についてみると分かったことだが、この街には国境越えの人と買い物客以外に誰も来ない。島国の日本には陸続きの国境が存在しないため、「国境越え」という響きにいささか緊張感、ロマンすら感じるが、ここマレーシアの場合、国境は単なる国境に過ぎず、特別な感情を持たれることはまずない。

 ランタウ・パンジャンの国境はやはり閉鎖中。いつも出国待ちの車列がなく、人影まばら。コロナの影響で3月下旬から、マレーシアとタイの陸路国境がすべて遮断され、今日に至るまでついに一度も開放されなかった。

ゴーストタウン化した国境の街ランタウ・パンジャン(筆者撮影)

 ランタウ・パンジャンの街はほぼゴーストタウン化している。この小さな田舎町が度々マレーシア国内のニュースで「買い物天国」として取り上げられ、有名になったのは、国境地帯に無税(非課税)エリアが設けられているからだ。一般地域から仕切られた無税エリアへは役人のいる検査ゲートを通過して入るが、出入りとも検査されることもなく素通り。検問所に数人の役人が雑談しながら、出入りの車にはちらりと視線をやることすらしない。

 無税エリアに入ってみると、結構広い。街の中の小さな街という規模だ。車でゆっくり一周するには10分ほどかかる。大きな駐車場はいくつもあって平時の来場者の多さ、繁盛ぶりを物語っている。しかし、今は大型免税店も一般商店もホテルも食堂もほとんどシャッターが下ろされている。国境閉鎖で出入国者がいなくなったわけだから、ビジネスは全滅だ。

ランタウ・パンジャンは人影まばら(筆者撮影)

 6月1日付のマレー語シナール・ハリアン紙(Sinar Harian)はこう報じている――。

 「ランタウ・パンジャンの無税エリアにある『買い物天国』はコロナのパンデミックにより売上げは9割以上激減し、崩壊状態だ。コロナ回復期活動制限令(RMCO)の発令で規制緩和が行われたものの、無税地域のビジネスは依然として回復の気配をみせず、実際に営業再開した業者は4割程度にとどまっている」

 しかし、実際に現場をみる限り、開いている店舗は現地民が食事をする小さな食堂や衣料品・日常雑貨等を調達する店だけで、全体の1割も満たない。

 ランタウ・パンジャン商工会理事長のラムリ・アブドゥッラー氏がシナール・ハリアン紙の取材に「街の経済は外国人観光客に依存している。地元民だけで経済を回すのが難しい」と語り、嘆いた。


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