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2020年11月17日

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樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

 ドナルド・トランプ大統領からジョー・バイデン大統領へ――ホワイトハウスの新たな主は、どのように東南アジアと向き合おうとするのか。

(Naeblys/aflo)

 この問題を考える前に、やはり「アメリカ第一」を掲げたトランプ政権の4年間が東南アジアに残した“痕跡”を振り返っておきたい。それというのも、今回の大統領選挙の最終結果がバイデン民主党政権誕生を幻と判断するようなことがあるにせよ、東南アジアに対するトランプ政権の過去4年間の振る舞いを検証しておくことは、日本にとって避けては通れない重要な作業と思うからである。

 トランプ政権の東南アジアに対する4年間の外交政策を概観するなら、先ず指摘しておくべきは一貫した確固たる理念に支えられた姿勢が見いだせそうにないことだ。そもそもトランプ大統領は東南アジアに関する知識や興味を持ち合わせていただろうか。大いに疑問だ。

 トランプ大統領の言動からして、東南アジアに関心はなかったと判断せざるを得ない。ならば無関心には無関心で応じたとしても一向に不思議ではない。東南アジアの国々が個別にも、あるいはASEAN(東南アジア諸国連合)としても、トランプ政権の気紛れ気味の政策に真正面から向き合わなかったことも、やはり納得できる。これを米中対決の視点で捉え直すなら、東南アジア各国の政権は事実としてトランプ政権ではなく習近平政権を選ぶに至った、ということだ。

剥き出しの敵意

 たとえば2018年11月にパプアニューギニアの首都ポートモレスビーで開かれ、米中両国が激突し、参加各国首脳陣の目の前で剥き出しの覇権争いを演じたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議は、その典型だろう。

 APEC首脳会議に臨んで、アメリカのペンス副大統領は「援助された国を借金漬けにはしない」と7兆円近い莫大な規模のインフラ投資用資金をチラつかせ、ASEAN諸国など参加各国を誘う一方で、中国を強く牽制した。まるで喧嘩腰であり、一帯一路を軸とする習近平政権による“熱帯への進軍”に対する剥き出しの敵意を感じた。

 これに対し会議に同席した中国の習近平国家主席は、「トランプ政権が推し進める経済・貿易の保護主義政策は世界経済のバランスを崩し健全な成長の妨げとなる」「世界経済は一国主義ではなく、多国間協力によって達成される」と応じるに止め、一種の余裕すら漂わせたのである。

 米中双方のあからさまな対立は会議進行に影響を与えた。首脳宣言が出せないという異常事態を招き、加えて1994年11月にインドネシアのボゴールで開催されたAPEC首脳会議が打ち出した「2020年までの域内での貿易自由化」との方針は白日夢と化した。

 その後の経緯を見るに、ペンス副大統領が提言した莫大なインフラ投資用資金にASEAN各国政府が積極的に応じたわけでもなさそうだ。トランプ大統領が呼び掛け、今年3月にアメリカで開催予定だったASEAN各国首脳とのサミットにしても、新型コロナ発生で立ち消えになったが、実質的にはASEAN各国からのボイコットも同然だったのである。

 中国との関係を考えるなら、ASEAN各国政府が習近平政権の進める一帯一路に対し正面切って拒否の姿勢を示すことはない。海上では中国と鋭く対立するヴェトナムにしても、国際公路で繋がる陸上ではタイやラオスを巻き込みながら静かな連携を進めている。

 1989年の天安門事件の後遺症脱出の一環として李鵬政権(当時)が強く打ち出した雲南省を軸とする西南各省とミャンマー、ラオス、タイ、ヴェトナムを包括する東南アジア大陸部との連携は、その後に着実な進展を見せる。それが2012年に登場した習近平政権に引き継がれ、世界戦略として強力に打ち出された一帯一路構想に結びついたと考えても強ち的外れでもないだろう。

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