2024年12月19日(木)

WEDGE REPORT

2021年1月18日

好機を逸した中国
西側諸国がすべきこと

 過去1年間の欧州における対中認識、姿勢の変化は、中国の行動に起因している。トランプ政権が、EU自体を含む欧州の重視する国際枠組みに軒並み対決姿勢を示したことは、中国にとっては欧州・中国関係を改善する絶好の機会であったが、それを完全に棒に振ったのは注目すべきことだ。

 米欧対立の深まる4年間を経て、より多くの欧州人が中国を「体制上のライバル」とみなすようになったことは、衝撃的ですらある。しかもそれは、トランプ政権による説得の結果ではない。香港における法の支配への挑戦をはじめとする中国自身の強硬な行動や不器用な外交の結果である。新疆ウイグル自治区における少数民族に対する迫害への関心も欧州で上昇している。また、新型コロナウイルス感染症の発祥地などに関する強硬な「戦狼外交」やディスインフォメーション(偽情報の意図的な流布)は、完全に逆効果に終わった。

 習近平国家主席が、中国は多国間協力におけるパートナーだと売り込んでも、信じる欧州人はほとんどいない。EUのボレル外相(外交安全保障上級代表)は、中国の姿勢は「自らの好きな部分だけの選択的多国間主義であり、それは国際秩序に関する異なる理解に依拠している」と述べている。60年までのカーボンニュートラルの目標や、新型コロナのワクチンを共同購入する国際的枠組みであるCOVAX(コバックス)への参加は、外交上も得点を稼ぐものだが、欧州における中国に対する懐疑的見方は根強い。

 他方で、米新政権の下、欧州での対米イメージは大きく改善するだろう。バイデン氏は、対中政策に関しても欧州と協力するとみられる。世界貿易機関(WTO)の活用や、気候変動に関するパリ協定や世界保健機関(WHO)への復帰も含まれる。そうした中で、気候変動に関する中国の目標達成やワクチンを外交ツールとして使わないことを監視できる。

 ドイツも欧州も、米国の進める中国との「デカップリング(分断)」には反対してきた。それでも、ドイツでは、経済関係を多角化することで、中国への依存度を軽減し、リバランスをはかる必要があるとの意識が広がっている。20年9月にドイツ政府が発表した「インド太平洋指針」の背景にも、効果的な中国政策を展開するには、中国以外の諸国との協力が不可欠だとの認識が存在する。価値を共有する諸国と経済・政治関係を強化することも、その一環である。

 ドイツ、欧州、日本がともにできることは多数存在する。例えば、技術や研究に関する協力、基準形成、さらには中国による経済的恫喝の被害を受ける同盟国への連帯なども含まれる。対中関係の運営に関してドイツは、日本から多く学べるはずである。日本は、ドイツ以上に中国に経済的依存をしながら、安全保障上はより直接的な挑戦を受けており、そうした中で研ぎ澄まされた感覚があるはずだ。

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■取られ続ける技術や土地  日本を守る「盾」を持て
DATA            狙われる機微技術 活発化する「経済安保」めぐる動き        
INTRODUCTION アメリカは本気 経済安保で求められる日本の「覚悟」
PART 1         なぜ中国は技術覇権にこだわるのか 国家戦略を読み解く  
PART 2         狙われる技術大国・日本 官民一体で「営業秘密」を守れ     
PART 3         日本企業の人事制度 米中対立激化で〝大転換〟が必須に 
PART 4     「経済安保」と「研究の自由」 両立に向けた体制整備を急げ   
COLUMN       経済安保は全体戦略の一つ 財政面からも国を守るビジョンを   
PART 5         合法的〟に進む外資土地買収は想像以上 もっと危機感を持て   
PART 6         激変した欧州の「中国観」 日本は独・欧州ともっと手を結べ 
PART 7         世界中に広がる〝親中工作〟 「イデオロギー戦争」の実態とは?
PART 8       「戦略的不可欠性」ある技術を武器に日本の存在感を高めよ         

  
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◆Wedge2021年1月号より

 

 

 

 

 

 

 

 


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