北朝鮮が事実上の核兵器保有国であることはもはや疑いようがない。日本にとって、重大な決断をしなければならない日が間もなくやってくるかもしれない。リチャード・ローレス元米国防総省副次官が描く朝鮮半島の未来、そして危機のシナリオとは――。
本稿について、谷口智彦氏(慶應義塾大学大学院SDM研究科教授/前内閣官房参与)による解説「米韓同盟は消える 日本は「二重鍵」核戦力持て」はこちら。
朝鮮半島には今後、南北が一体化した「新朝鮮」が誕生する可能性がある。それは、日本にとって悪夢のシナリオになる。選択肢の一つとして、日本へのINF配備を真剣に検討すべき時がきている。
2020年5月、数週間にわたり動静が不明だった朝鮮民主主義人民共和国の若き指導者が、重要なイニシアチブの発表に合わせて姿を現した。そして金独裁政権の三代目が拍手をする中、朝鮮労働党中央軍事委員会は新たな戦略方針を発表した。その内容は北朝鮮が事実上の核保有国を称するようになったからこそ可能になった激しい口調の脅しの言葉が並び、全体的には目新しさを欠いていたものの、金正恩の国家安全保障チームは今後数カ月にわたり「核による抑止力」を強化すると強調し、新たな核兵器・ミサイルの実験・配備の可能性を示唆したのである。
北東アジアの政治力学は、好戦的な北朝鮮が核兵器を保有したことにより不可逆的に変貌した。北朝鮮は核兵器を半島内、地域内外へ到達させる能力を手に入れたと誇り、日本、韓国の民間人、両国にある米軍基地、またグアムの米軍基地も危険にさらされることになった。さらに最近では、北朝鮮の核の脅威は米国本土にまで及ぶことが分かった。
今や、北朝鮮政権は米国や国際社会の核不拡散政策が失敗したことを表す究極のシンボルとなっている。朝鮮戦争の結果として戦略的に生まれた北朝鮮は核兵器を完成させることで、1953年の朝鮮戦争休戦協定以降の地域のパワーバランスを覆した。中国が経済・軍事大国として台頭してきたことに代表されるように、近年、北東アジアでは不安定さが増しているが、その中でも北朝鮮は特別なケースである。国際社会が北朝鮮の核兵器保有を阻もうとする中、北朝鮮政権はことごとくこれに反抗してきたのである。
北朝鮮が地域の破壊者として北東アジアの安定を脅かす存在となったのは、本来、状況をよく把握しておくべきだった国々の怠慢によるものである。なかでも中国は北朝鮮が進める核兵器プログラムの最大の支援者である。中国をはじめとする各国は手遅れになるまで北朝鮮の核開発を許し、とりわけ中国は問題が深刻化すると今度は北朝鮮問題を他国、すなわち米国に押し付けようと躍起になった。
ロシアと中国は、米国と同盟国を悩ませる地域のトラブルメーカーとしての価値を北朝鮮に見出していたが、ある時点から、北朝鮮は反抗的で手の焼ける子供じみたお荷物のような存在へと変化したのである。この要因について、中国とロシアが単に注意を怠っていたからなのか、それとも敢えて見て見ぬふりをして問題を助長したからなのか、ということが、かなり前に争点となった。
今や、地域における敵役となった北朝鮮を武装解除・無力化するには、近隣諸国と米国ともに相当な巻き添え被害を覚悟しなければならないところまで、北朝鮮の戦略兵器開発は進んでいる。世界が直面しているのは、好戦的かつ予測不能な金正恩体制が大規模な破壊を遂行できる能力を手に入れたという現実であり、さらにこの政権は国家の存続リスクはほぼ気にかけずに、自らの野望を実行に移す傾向がある。また、北朝鮮政府は挑発行動をとることが多いため、それがエスカレーションサイクルを引き起こす可能性も十分にある。そうなれば歯止めの利かない行動の連鎖によって、北朝鮮は核兵器の使用に踏み切ることになるだろう。
北朝鮮は、二枚舌外交という点ではイランに次ぐ存在であり、国民国家テロ組織に近いとも言えるかもしれない。北朝鮮は核保有国を目指す他国に対してそれを可能にする機密能力を輸出する意思と能力を持っているという意味で、一流の核拡散主導国でもある。シリアへの核研究用原子炉と化学兵器の提供、イランへの弾道ミサイル技術の売却は、北朝鮮が保有するあらゆるものを金さえあれば誰にでも売る傾向があることを示す二つの例に過ぎない。
核兵器の拡散に関するこれらの問題により、国際社会は北朝鮮が反抗的な核武装国として、ますます制御不能な存在になっていることを認識するようになった。したがって我々は北朝鮮がこのような核の拡散を今後もさらに進めていくことを想定しておく必要がある。
2020年の核保有国・北朝鮮
今日、北朝鮮が真の核兵器保有国であることは疑いようのない事実である。単純なプルトニウム型の第一世代、あるいは第二世代の核分裂装置にとどまらず、北朝鮮はブースト型核分裂装置を含む兵器開発を進めており、熱核兵器の実現に近づいている可能性があることも明らかになっている。まだその最終目標に達していないとしても、主要な核保有国と同等の核戦力を確保するとの決意を公言していることからも、その目標のすぐ手前まで来ていることは間違いないだろう。北朝鮮が大量のプルトニウムと高濃縮ウラン、さらには、より高度な兵器開発に必要な重要物質の生産能力をこれまで以上に高めたことで、北朝鮮の戦略兵器の脅威がもはや既存の核兵器保有国の水準にまで到達したことを世界の安全保障関係者は認めなければならない。
単発の爆弾を製造していた北朝鮮が、さまざまなタイプの兵器の設計から実験、配備を含む一連の開発が可能な国へと成長したことは、北朝鮮の核の脅威が今後も長く続くことを示唆している。貧困国である北朝鮮による弾道ミサイル発射システムの開発は、それ自体が信じがたいほど野心的であったが、これにより北朝鮮政権は韓国のみならず、歴史的に敵対視し続け、核攻撃の対象に値するとさえみなしている日本をも標的にする能力を手にした。
北朝鮮が在日米軍基地のみならずグアム・ハワイの米軍基地をも弾道ミサイルにより核攻撃できる能力を保持したことにより、米国は西太平洋における政治・軍事戦略の全面的見直しを迫られている。この地域での米軍の前方展開は、対立の深まる中国に関連する有事への備えとしての計画策定およびその遂行のために不可欠であるが、北朝鮮によりこれらの米軍基地が危険にさらされることで深いジレンマが生じた。米国の軍事計画は複雑化し、中国問題に適切に対処する能力が低下したのである。
さらに今や北朝鮮は限定的とは言え、他の大陸を射程圏内に収め、米国西海岸をも脅かすこととなる弾道ミサイルの製造・発射能力を誇示するまでに至っている。北朝鮮の意図は明らかである。北朝鮮は米国を核攻撃の危険にさらそうと、そのために必要な軍事力の拡充を急いでいるのである。
朝鮮半島全土への影響力拡大を狙う北朝鮮は、韓国政府に圧力をかける手段として、縮小してしまった通常戦力を補うべく戦略兵器への依存度を高めてきた。そしてついに北朝鮮は韓国の従属を目的とした「核兵器開発優先」路線への転換を成功させたのである。北朝鮮はあらゆる手段を行使してでも朝鮮半島を統一することを憲法上義務づけられていると、指導部が拡大解釈している好戦的な国家であり、この戦略兵器を手に威嚇と宥和を織り交ぜ、朝鮮半島のバランスを崩壊させている。北朝鮮の最終的な目的は韓国の国家基盤と統治機構を蝕み、韓国を従属させることであり、これに対して韓国は戦略兵器能力という威嚇手段の前にひれ伏し、北朝鮮に和解を求めているというのが現状である。
核武装した北朝鮮は、妥協と武力による脅しを織り交ぜることで韓国に対して優位な立場を確立している。核兵器を保有しその使用をちらつかせることで北朝鮮は事実上の「兄(長男)」――朝鮮の伝統的家族観における家族の中心――となり、弟である韓国は従属的な立場を強いられている。1950年の朝鮮戦争で韓国を総攻撃した時代から北朝鮮が追ってきた最終的な目的は今日、北朝鮮の新たな野望により塗り替えられた。朝鮮戦争における北朝鮮の目的は南北統一であり、それは彼らにとって、血なまぐさい方法で南を荒廃させ、その人民を根絶やしにすることになったとしても達成すべき目的であった。
しかし、核のハンマーを手にしたことで、北朝鮮による半島の支配と最終的な征服までの道筋はより明確なものになった。経済破綻し非力な国家である北朝鮮には、征服地に提供できるものが何もないため、韓国が保有する富の支配権確保の機会を窺うことになったのである。核兵器はこの征服のために必要な手段の一つとしての役割を担っている。
北朝鮮が韓国に対して核の先制攻撃をしかける理由は見当たらないものの、その能力は北朝鮮のより挑発的な行動を可能にしている。それは現に単発で限定的な通常兵器による攻撃、あるいは通常兵器による攻撃とは異なる手法での予告なき軍事的行動という形で起こっている。韓国が北朝鮮の核戦力に対抗できる能力を自前で保有していないという事実が、北朝鮮をより攻撃的に、韓国をより従順にさせているのである。
北朝鮮の武力挑発を受けた韓国が撤退か黙認以外の形で応じた場合、北朝鮮は核による反撃を行うと脅迫するだろう。北朝鮮は自身の行動に伴う損得の計算に長けており、一見無謀とも見える挑発行動の裏にも独自の合理性があるため、これは単なる仮説のシナリオではない。朝鮮戦争時代の境界線や個々の島の帰属問題で争いのある半島西側海域は、北朝鮮にとって軍事的主導権を握るのに適した場所の一つである。紛争の序幕として容易に想像できるのは、北朝鮮によるこれら無人島の占領であり、北朝鮮は韓国政府の面目をつぶすことを目的に、それらの島が本来の所有者へ永久に返還されたと宣言するだろう。
では北朝鮮による圧力・緊張昂進の次なる展開はいかなるものか。一つの可能性として考えられるのは韓国の民間人が住み軍人が駐在するより大きな島の奪取をちらつかせ、韓国に撤退という形で戦闘の回避を要求することだろう。公然と対立するか、撤退するかの選択を迫られた場合、現在の韓国政府はおそらく妥協して立ち去ることを選ぶだろう。まさにこのような状況は直近でも起こっており、将来的にも間違いなく起こるだろう。北朝鮮の目的は、徐々に韓国への支配を強めながら、韓国の政治基盤の支配を計画的に進めることにある。
核兵器により優位に立つ北朝鮮には多くの選択肢がある一方、韓国には相手を宥めるしか手立てがないため、今後も南の弱さが北の挑発を誘発することになるだろう。そして米国は、自国の立場を守ることさえ躊躇する、弱体化したパートナーとの同盟関係に縛られていることに、遅ればせながら気付いたのである。
中国――無作為によるほう助
中華人民共和国と中国王朝時代から服従国であった朝鮮との関係が容易なものであったことはいまだかつてない。金日成による韓国侵攻の決定、そしてスターリンがそれを黙認し積極的に支援したこと、さらにはその侵攻に対して米国と国連が予想外の対応をとったことが組み合わさり、毛沢東政権下の中国は朝鮮戦争へと引き込まれた。50年後半、米国主導の反撃で北朝鮮が退却し、国連軍が北朝鮮・中国の国境近くまで進撃すると、スターリンは中国に実質的な対応を任せたため、毛沢東は覚悟を決めて、中国人民志願軍によって関与せざるを得なくなったのである。
毛沢東が朝鮮戦争に2年半深く関わったことにより、何百万人もの兵士が動員され、その結果、彼の息子を含む何十万人もの命が犠牲となった。この戦争は、中国と北朝鮮を共に試練に耐えた同盟国として結束させることになり、表向きは「唇歯」〔※訳注:唇がなくなると、歯は冷たくなる、から相互に依存した関係〕の同盟関係がその後数十年間続くことになった。しかし、この関係は中国から見れば必要なものでも望むものでもなかったため、やむなく結びつけられた両者は次第にこの関係に悩まされることになる。
ただし、これは50年時点の中国において曖昧な軍事行動の決定がなされていたということではない。6月に北朝鮮が侵攻を開始した直後、中国は北朝鮮との国境防衛のための準備を始め、戦争に直接参戦するために軍隊を配備した。そして国連軍が鴨緑江に近づく頃には、中国人民志願軍の名の下、複数師団から成る軍隊を派兵する決定をしたのである。
朝鮮戦争は、結果として中国の指導部にとって政治的・軍事的にも負担の大きい、不要な戦いであった。朝鮮戦争への参戦により、中国は、同年秋に開始予定であった台湾侵攻の準備を見送らざるを得なくなった。
国民党に対する最終攻撃にあたり、計画、資材、兵器(戦闘機MIG−15の派遣第一弾を含む)の面で、ソビエト連邦から大規模な支援を受けることになっていたが、国連軍が北朝鮮を制圧して鴨緑江沿いの国境に近づくと、毛沢東は台湾戦線を放棄して兵力を再配置せざるを得なくなったのである。朝鮮戦争に足を踏み入れた結果、中国は数十年にわたり台湾に攻勢をかける機会を失い、70年余りたった今もなお、彼らにとって台湾問題は未解決の状態にある。
50年後半に参戦した中国軍は、米軍と国連軍を朝鮮半島の南方へ後退させ、マッカーサー将軍の部隊に敗北に次ぐ敗北を与えた。国連軍は失った地域の多くを何とか取り戻したものの、南北朝鮮の元々の国境線からそれほど遠くない場所にあった当時における戦闘の最前線に沿って休戦が決まった。
この時点までに、国連は韓国の李承晩の指導の下で朝鮮半島の再統一を決議していたため、中国の介入は北朝鮮を敗北から救うにとどまらず、国家の消滅をも阻止したと言える。そもそも朝鮮人から好意を受けたことがなく、朝鮮そのものを軽蔑して扱うことに慣れていた中国は、それだけにこの恩知らずな北朝鮮の態度に憤りを覚えたのである。その非礼に対して中国は、軍が戦闘を続ける中で後に2年間迷走することとなる休戦協定に関する協議のために紛争当事国が一堂に会した交渉の場において、自らも主張できるよう各国と対等な立場を要求し実際にそれを手に入れる形で応じたのである。
その後、ソ連と中国の助けを借りて国を再建する間、北朝鮮の指導者は両国に対して我慢を続けた。しかし、政治的には両者とある程度の距離をとりつつ、最大限の援助を確保するために、中ソ両国を互いに競わせ利用し続けてきたのである。中国は北朝鮮において特権を与えられず、ソ連に至ってはさらにそれを下回る扱いであった。しかし北東アジアにおいても冷戦の影響が深く根ざしていく中で、中国とソ連は戦争で疲弊した北朝鮮を支援せざるを得なくなった。北朝鮮は、厄介なお荷物の依存国という立場で、経済援助と通常戦力の再構築を加速させるために必要な武器入手と引き換えに、同盟関係にある共産主義国へ原材料を供給する役割を担った。
筆者が米国代表団の副団長を務めた、2003〜05年における北京での六者会合では、北朝鮮に対する中国の不信に満ちた姿勢がきわめて顕著だった。中国が北朝鮮に建設的な関与を迫ろうとすると、北朝鮮代表団は抵抗し、その結果、中国はさらに不満を増大させていった。当初、中国は、たとえ可能性が低くても、何らかの妥協点を見つけるための場を提供するという中立的立場をとり、協議の主催者としての自身の立ち位置の確立に成功していた。しかし、中国は北朝鮮の非常識な行動にさらされ、北朝鮮が妥協するために中国に来たわけではないことを早々に知ることになったのである。
中国側は協議の冒頭から、北朝鮮が核保有国になった責任は自らには一切なく、朝鮮半島の現状を作り出した責任はすべて米国、日本、韓国にあるという国家方針を明らかにしていた。この姿勢は、決議に何の貢献もせず傍観し続けたという意味で、中国が20年以上にわたって取り続けてきた北朝鮮の戦略兵器開発に対する姿勢と同種のものであり、極めて不幸なことであった。これは北朝鮮に対する中国側の影響力欠如を露わにしたというよりは、むしろその証しとなったと言うべき事柄である。
これらの結果、中国には北朝鮮に圧力をかける能力が全くないこと、また、たとえコンセンサス・アプローチによりそれが可能になったとしてもその気がないことを米国、日本、韓国の代表団は認識するに至った。
その後も、中国は、北朝鮮の核実験、挑発的なミサイル発射に対しても、ただただ傍観する傾向を強めていった。米国をはじめとする同志国が、北朝鮮の看過できない問題行動に対して制裁をかけ、抑止するための決議案を国連で次々と発表しても、中国はそれらの実行力を弱めるか、あるいは完全に拒否するかのどちらかであった。この挫折は国連安全保障理事会において度々繰り返され、北朝鮮の挑発行動に対して、同機関が無力であるという厳しい現実を示すものとなった。
さらに言えば、中国はすぐ目の前で北朝鮮が核兵器を製造しているにもかかわらず、北朝鮮に圧力をかけるような解決策には一切関わろうとしなかった。そして05〜08年にかけて、またそれ以降の国連安全保障理事会の審議において、中国はロシアと、北朝鮮問題に関してはすべて中国が主導するという取り決めに基づいて深い共謀関係にあった(イラン関連のすべての国連安保理活動についてはロシアが主導し、中国はロシアがその顧客であるイランのために行った介入すべてを支持し、ロシアに忠実に従った)。
この中国とロシアの歪んだ関係は、北朝鮮とイランの双方を数々の国連安保理のイニシアチブから守る役割を果たした。中国は、オバマ政権の8年間、北朝鮮を甘やかし続け、同政権が北朝鮮問題について見て見ぬふりをするための言い訳を探すのに一役買った。このオバマ政権による作為的無関心の結果、17年に後任のトランプ政権が誕生した際、ホワイトハウスの前庭に核保有国北朝鮮という煙をあげる、ろくでもない国家が横たわることになった。新大統領自らが取り組むことになる厄介な問題として北朝鮮問題が顕在化したのである。
中国は20年になっても北朝鮮の戦略兵器の開発問題に積極的に対処することについて相変わらず後ろ向きであり、この計算ずくの煮え切らない態度が今後変わる気配はない。このように、北朝鮮に関するいかなる解決策にも、中国は現在、そして将来においても関与することはないだろう。
核不拡散を訴える者にとっても疑う者にとっても教訓は明らかだ。北朝鮮のような「ならず者国家」は、戦略兵器の開発と配備に関する国際合意のあらゆる側面に違反し、核拡散防止条約(NPT)を脱退して国際原子力機関(IAEA)による監督を拒否し、他国から向けられた政治的非難(単なる言葉の面)を無視し、経済制裁(行動の面)で苦しみながらも、あらゆる大国が当事者として関与する地域の安全保障力学全体を混乱させるための計画を予定通り進めることができるのだ。
そのような中で、より良い世界秩序を達成するための話し合いにおいて、うわべだけ「利害関係者」を装うものの、地域と世界のより大きな利益のために北朝鮮に影響力を行使しようという気概を見せない中国の姿勢は、著しく怠惰であると言わざるを得ないだろう。
ますます的外れな韓国
北朝鮮は韓国にこれまで根付いた民主主義を混乱させ、傷つけるに足るだけの核戦力と韓国に対する強固な対決意志を持っている。このことは朝鮮半島情勢の長期的な展望を考えるうえで重要なことである。北朝鮮はこの対決姿勢により韓国経済の活力を脅かし、韓国に自らの脆弱性を痛感させ、不確実性、混乱、恐怖の現実へと引き込むことができるのである。
この状況に加え、韓国の革新派政権は「我々の時代に平和を実現する」ことに非常に熱心で、国家と国民を北朝鮮の従属物として犠牲にしようとも南北和平を実現したいと考えている。この問題は、韓国の現政権特有のものという意味で一時的なものであるとはいえ、北朝鮮が自らの戦略に自信を深めることにつながっている。韓国の国内情勢は、目的を達成するためには多少の対決リスクを冒すことができるという勘違いを北朝鮮にさせてきたのである。現在の韓国におけるあらゆる兆候は、韓国の政治の動きが流動的で影響を受けやすく、いかに北朝鮮の介入を招くような状況にあるかということをよく示していると言えるだろう。
現在の朝鮮半島の核問題におけるもう一つの論点は、韓国と米国との関係、すなわち米韓同盟とその安全保障上の責務を支える核抑止の機能にある。現在の韓国は革新派政権であり、民主的に選出された文在寅政権は少なくとも22年まで続くことになる。
文政権には、自国の主権を犠牲にしても南北関係を追求しようとする傾向が強い。そしてこの目標を追求する過程で、文政権はこれまで以上に米国との同盟関係に居心地の悪さを感じている。文政権は都合のよい時は同盟国が提供する安全保障を当然のものとして捉える一方、政治的事情によっては同盟を軽視する傾向にある。韓国は南北関係に新たな可能性を見出すと、いつも決まって米韓同盟を犠牲にし、抑止力の効果を損ねる選択をするのである。
また文政権は韓国の対北宥和政策の失敗の責任を米国に押しつけようとしている。革新派政権の韓国は文在寅大統領らの面子を潰してまで米国と直接対話しようとする北朝鮮に恥をかかされたと感じているのである。一方、北朝鮮はこうすることで韓国の重要性は所詮二の次に過ぎないことを知らしめ、米国と南北朝鮮という三カ国の関係から韓国を排除しようとしている。このような韓国と米国の不幸な状況は文政権の残りの任期中は継続されるだろう。そして全ては北朝鮮政権を利することになるのである。
文政権は米国との関係を犠牲にしてでも中国との関係を重視する「二股戦略(straddle strategy)」を採用している。そして中国が韓国の風上に立つことを許している。韓国はこの戦略に徹しているうちに、米韓防衛関係の信頼性を低下させる形で中国と「妥協」することを覚えてしまったのである。
そして米国による韓国への「高高度防衛ミサイル(THAAD)」防衛システム配備に対する対応は、まさに韓国が自らを弱体化させる姿そのものであった。そもそもTHAAD配備は韓国を周辺国の脅威から守るために駐留している在韓米軍を防衛することを目的として、米国が必要と判断したものであるが、中国はこれに反対し、配備に反対するよう韓国に圧力をかけたのである。
THAAD配備を許さないという中国の要求に韓国が屈することになれば、それは韓国が米韓同盟上、定められた約束と精神に明白に違反したことを意味する。議論が進むにつれ、韓国は分裂した忠誠心に折り合いをつけられず逡巡した。北朝鮮のミサイルから駐韓米軍を守るためにTHAAD配備を決意した米国は、韓国政府と時間をかけて調整を進めたが、韓国は抵抗し、何とか中国を宥めるために跪いてでも妥協の道を探ろうとした。
結果は残念なことに屈辱的な降伏を意味するものとなった。韓国の外相は中国に赴き、韓国が新たに打ち出したTHAAD政策の「三つのノー」を、中国側の満足のいく形で大々的に宣言したのである。この公式声明は、①韓国は自国内に米国もしくは韓国自身によってTHAADを追加配備することを検討しない、②韓国はTHAADを韓国のミサイル防衛システムに統合することにより、米国のミサイル防衛システムに参入することを検討しない、③韓国は米韓日の地域ミサイル防衛システムに参入することを検討しない、ということを中国に保証するものであった。
文政権によるこの恥ずべき宣言に続いて、韓国内では、THAAD関連施設の建設そのものを妨害しようと、親北朝鮮活動家の抗議デモ隊による組織的な抵抗が行われた。韓国大統領府が容認したこれらの動きは、システムの配備を遅らせ、その効果を低下させるものであったが、それと同時にそもそも文政権が同盟関係の機能低下を受け入れる覚悟ができていることを示すものでもあった。
またさらに深刻なことに、文政権は米韓同盟の即応性・信頼性維持のために欠かせない合同軍事演習を延期、縮小、中止することにまで踏み切ったのである。この対応は、明らかに同盟を蝕むものであり、米国が同盟関係の維持に注ぐ努力を削ぐことにつながるが、これがまさに文政権の方針なのである。北朝鮮指導部がこれと同じ目標を共有しているのは偶然ではない。韓国政府が今後、同盟を劣化させ、最終的には終焉させるよう、北朝鮮は仕向けていくだろう。
米韓同盟が質的に劣化していく現在の局面を考察するうえで、これまでの経緯を振り返ることは有益である。北朝鮮が核兵器を独自開発して以降、地域における米国の核抑止力はどの程度低下したのだろうか。朝鮮戦争の直後、米国の軍事作戦担当者は、北朝鮮が再度韓国に侵攻するための戦力を再構築することはできないだろうと分析し、米国は韓国における戦力体制を縮小でき、さらに朝鮮半島に核兵器を配備することは永遠にないだろうと考えていた。
しかし、1950年代に冷戦が激化するにつれ、米国は北朝鮮の通常兵器の増強の程度を認識するようになった。同時に北朝鮮がこれらの兵力を非武装地帯のすぐ北側に前方配備し、韓国に攻撃を加える構えを見せたことは米国にとって大きな懸念材料となった。これにより米国は北朝鮮の能力拡大が続くとの認識から、朝鮮半島に戦術核兵器を配備するしかないと結論づけざるを得なくなったのである。北朝鮮指導部が軍事力増強によって自信をつけ「第二次朝鮮戦争は可能な選択肢である」と過信するのではないかという当時の米国の懸念は、合理的なものだったと言えるだろう。
米国の核兵器は当初こそ渋々増強されたものの、すぐに戦術システムとして国連司令部の戦闘計画の一部となり、その後何十年にもわたって維持されるとともに、さらに多くの優れた性能を持つ戦術核兵器が配備された。米軍は64年までに10種類以上の戦術核兵器システムを韓国国内に配備し、92年にジョージ・H・W・ブッシュ(父)大統領がこれらを撤去するまで、数百発単位の核が韓国国内に存在し続けることになった。
今日、これらの米軍の戦術核兵器が韓国から撤去されて久しく、朝鮮半島に戦術核兵器が物理的に存在してきたことで確保されていた抑止力は消滅するに至った。もはや韓国内にこれらのシステムや類似のシステムが、再び配備されることはないだろう。朝鮮半島の核バランスが根本的に変わったことは、朝鮮という国家の次なる変化に向けた新たな条件が設定されたことを意味する。
政争の具にされてしまったTHAADシステムを含む米国の通常戦力が韓国から撤去されることで、米国の核による関与も消えてなくなることだろう。いかに「確実な抑止力」といった文言で飾り立て、いかに新しい状況を取り繕おうとも、その現実は変わらない。朝鮮半島で軍事衝突が起きた場合、それがどのようなものであろうと、正式な米韓同盟なくして米国の参戦はあり得ない。同盟が破棄されれば、通常兵器による攻撃であれ核攻撃であれ、米国が介入するシナリオはないのである。このことは中国や日本と同様に北朝鮮もよく理解している。
米国が韓国に対する安全保障上の義務から解放されるシナリオはいくつか想定される。そのうち可能性が高いのは、米韓の政治関係の急激な悪化を受けて、「不可避なことを先延ばしするよりも今すぐ撤退したほうがいい」という新たな現実を米国が受け入れ、速やかに撤退を始めるというシナリオである。このような事態は、米韓の同盟関係を不完全なものにすることこそが南北統一への近道と考える韓国の革新派政権によって引き起こされるだろう。この策略を察知した米国が韓国との泥沼関係を避けるべく撤退という行動をとるのである。より時間と痛みを要するシナリオであっても、いずれにしても米韓同盟は2030年までには終焉を迎えることになるだろう。
「新朝鮮」というシナリオの検討
朝鮮半島には「新朝鮮」に関する三つのシナリオがあり、今後、米韓関係がいかに展開しようとも、そのうち一つが展開されるのを日本は目の当たりにするだろう。
これらのシナリオの中で最も好ましいのは、現在の大韓民国が形式上は維持されることだろう。ただその場合でも、存在するのは表向きだけ主権国家として領土を支配しつつも、米国との同盟関係と引き換えに北朝鮮に永久に従属する立場になった民主主義国家である。北朝鮮は核の切り札を使って、「弟の韓国」を自分の意のままにするだろう。そしてこの最も好ましいシナリオにおいてでさえも、北朝鮮は日本を敵対的存在としてみなすことで、政治的にも感情的にも、韓国との共通の土台を見出すことになるだろう。
韓国人はすでに、北朝鮮のミサイルの大部分は日本に脅威を与えるためのものであって、同胞の韓国には向けられていないと確信している。このような考え方を受け入れる遺伝的傾向がある南北の朝鮮人は、米国が韓国との安全保障の枠組みから手を引けば、結束してこれまで以上に日本に対するあからさまな強硬姿勢を示すことになるだろう。
第二のシナリオは、実現性は低いが、韓国が北朝鮮から政治的な独立を保ったまま、米韓同盟によって課されていた制約から解放されるケースである。その場合、韓国は独自の核兵器能力の開発という選択をするだろう。ただこのような状況になるのは、文政権ほど革新的でない政権が誕生し、固い決意をもって北朝鮮とある程度距離を置くという決断をした場合に限られる。したがってそのような保守政権であれば、そもそも革新派が望むような北との宥和を拒否し、米国との安全保障関係を再構築しようとするかもしれない。
しかし、伝統的な米韓同盟へ回帰する場合においても、韓国内の同じ保守派から、独自の核戦力の保有を強く要求する声があがる可能性は非常に高い。韓国政界ではすでに、保守派と革新派の一部から、核兵器放棄の方針の見直しを求める声があがっている。彼らは、北朝鮮に対し従属的な立場に甘んじている現状を巻き返すために、北朝鮮との間で一定の対等性を確保する必要があると主張している。北朝鮮の能力向上に伴い、こうした行動を求める声は今後も大きくなると予想される。
多くの韓国人は、革新派であっても保守派であっても同様に北朝鮮の核兵器開発による成果に対し、密かに敬意を抱いている。言葉にはしないものの、北朝鮮によって核兵器開発が成功したことを朝鮮人の誇りと受け止めていることは明らかである。多くの朝鮮人は、北朝鮮によるこれら兵器システムの開発が、半島の「民衆」つまり「朝鮮民族」を、この地域における本来の立ち位置へ引き上げたと考えている。
韓国が核兵器を開発した場合、当然北朝鮮の反感を買い、朝鮮半島での紛争勃発が予期されることになるだろう。また韓国の核兵器開発は、日本にとっても最悪の事態となろう。なぜなら、南北朝鮮のそれぞれが核兵器を持ち、歴史的敵国である日本に脅威を与えるために、どちらがより独創的な方法を見出せるか競い合うという状況を生むからである。このような最悪の事態を防ぐ米国の能力は、同盟による実行メカニズムがなければ、最小限に留まることだろう。
第三のシナリオは、短期的には可能性は低いが、長期的には可能性の高いシナリオである。それは南北朝鮮が一つの国家主体となり、統一されるかまたは何らかの連合体となるケースである。これにより「敵対関係の終了」を謳った共同宣言といった類いの和平合意が急がれ、限定的かもしれないが半島全体で統合の動きが促進され、実現することになるだろう。しかしこのような一国二制度主義のアプローチは甘い考えである。和平合意を急ぐ韓国の革新派にとっては非常に魅力的だが、それは1938年のミュンヘン協定と同様の顛末をもたらすだろう。またこの種の協定は国連への委任の終わり、国連軍司令部の解体、そして駐韓米軍の撤退の引き金にもなろう。
このような暫定的な取り決めを北朝鮮は歓迎するだろうが、これはあくまで北朝鮮が期待を寄せ、長い間待ち望んできた北による南の吸収の第一歩に過ぎない。このような連合体は、それぞれの領土の保全を維持するスイス連邦のような枠組みを少なくとも一定の期間は目指すことになるだろう。しかし、一度政治的・経済的な統合が加速すると、両国共通の対外問題が増えていくにつれ、いずれかの時点で北朝鮮が支配的な立場に立つことは避けられないだろう。
この最悪シナリオの一つの派生として、複数の惨禍により北朝鮮が崩壊することも考えられる。韓国が北に介入して圧力を強めることで北の指導者争いが生じ、これが北朝鮮の崩壊を招く可能性もある。
韓国の主導により統合が実現する場合には、韓国は間違いなくあらゆる手段に訴え北朝鮮の核開発にかかる全てを我が物にしようとするだろう。この時、既存の核兵器保有国が一丸となって、強固に後継国家に対して自発的な核の放棄を要求しない限り、恐らく韓国は、これらの戦略兵器能力の解体や廃棄に同意し、国際社会へ引き渡すことをためらうだろう。武力を伴う実際の脅威を感じれば、韓国は譲歩するかもしれないが、その望ましい結果を当然のものと捉えるのは余りにも楽観的である。日本や米国の計画担当者は、北朝鮮が崩壊もしくは分裂した場合、核兵器を保有した新しい韓国が誕生することをも想定しておく必要がある。
この新朝鮮シナリオのどのようなケースにおいても、両国の軍事力の統合は、少なくとも司令部レベルでは避けられず、その際、北朝鮮はこの統合に関して何らかの南側の譲歩やコミットメントを引き出すことを目論むだろう。また仮に北朝鮮が崩壊した場合には、当然のことながら統合は韓国の軍事計画当局を利する形で進むだろう。一方で北朝鮮が軍の統合プロセスを支配するケースでは、指揮統制の体制移行が年月をかけて段階的に行われる計画であったとしても、実際の効果自体は即座に表れるだろう。
その結果、統一国家または連合国家(としての朝鮮)は、7500万人以上の人口を擁する国家となり、また同時に地域の政治大国、国際的な経済勢力ともなるだろう。
この新朝鮮は日本海、さらにはその先で、空軍・海軍の優位性を展開できるだけの強力な通常兵力を保有することになる。新朝鮮の空軍・海軍は、域内において覇権を握るに至らずとも、他国の大きな懸念材料となり得る存在にはなるだろう。この軍事力は、現在の韓国政府が着々と配備している戦力からもたらされるものである。そしてこうした軍備増強は、もはや存在しなくなった北朝鮮の戦力への対抗手段としてではなく、より伝統的な敵国の持つシステムに対する対抗手段として今後も続くことになるだろう。
このような新朝鮮のシナリオには、通常戦力だけでなく高性能の核兵器攻撃力が上乗せされることになる。また北朝鮮から継承した核兵器のシステムと開発プログラムは、韓国の産業力と技術的知識により強化されるだろう。そして新朝鮮はこの核攻撃力を半島全体に配置できるようになり、より短い射程の戦術システムを用いて日本全土を標的にする能力を強化することになるだろう。
この新朝鮮のシナリオは、10年後の脅威環境の予測をさせてみれば見えてくるだろうが、このことは日本の計画当局を夜も眠れない状況に陥れることになる。日本のリーダーがこのような不都合な現実から目を逸らしたり、合理的な範囲を超えてその可能性を軽視すれば、このような悪夢のシナリオは現実のものとなって日本に降りかかってくるであろう。その根拠となる条件は既に揃っているのである。
日本に対して必然のものとして率直に伝えざるを得ないことは、現在の米韓安全保障関係の枠組みが、中期的、長期的には維持不可能だということである。たとえ米国の韓国からの撤退が段階的なものであったとしても、韓国に配備している米軍の通常戦力の縮小は、米韓安全保障同盟の終焉、そして在韓米軍がこれまで日本に提供してきた緩衝地帯の消滅の前兆となろう。米韓安全保障関係の消滅は、日本が増大した脅威への対応について抜本的に再考せざるを得なくなるきっかけとして、日本に大きな影響を与えることだろう。
日本――新しい現実への目覚め
一方で、日本は米国にとって、東アジアにおける重要な安全保障のパートナーであり、北朝鮮の核の脅威に関して米国との認識の共有化が進んでいる。距離・歴史・文化などの理由から、日本の認識はパートナーである米国よりも切迫したものとなっているのだ。なぜなら、日本や在日米軍基地に対する北朝鮮の弾道ミサイルによる脅威は、米国本土に対する脅威に比べて、より明確で現実的だからである。
日本の国家安全保障計画策定においては、日本を標的にした北朝鮮のミサイルの質と種類、日本の都市と重要インフラに内在する脆弱性、そして北朝鮮から無数の弾頭を撃ち込まれた場合に日本はそれを迎撃できない可能性が高いという現実などが主要課題となっている。こうした北朝鮮の脅威は、もはや抽象的なものでも仮説的なものでもないのだ。
1945年以来、日本は米国の核の傘の下で「拡大抑止」の恩恵を享受してきた。一方、過去70年以上にわたって日本は、もはや米国による安全保障を頼ることができず独自の道を歩まざるを得なくなった際に必要となる重要課題の検討を慎重に進めてきた。それは、南北朝鮮と日本の間に深く根差した敵対意識を背景とする北朝鮮の核兵器による敵対行為と、エスカレートする中国の強硬姿勢が、日本にとってますます重大な問題となってきていることが背景にある。
もしこの二つの隣国の脅威に対する米国の抑止力が弱体化していくことを日本が少しでも認識することになれば、今後数年以内に日本が核の専門知識を生かし、必要な行動に出るという決断に舵を切る可能性は大いにあり得る。たとえ可能性が低いとしても、日本が核兵器保有国になるというシナリオが考えられるということを米国は認識し、計画立案していくべきなのだ。日本が核を保有するというシナリオは、将来米国内で核に関わる情報を分析し政策を立てる当事者にとって、核拡散の地図を塗り替える要素となるとともに、安全保障戦略における新たな展開への一石となるだろう。
2020年現在、最近まで安倍晋三前首相が主導していた日本の安全保障チームは、北朝鮮の脅威の大きさに警鐘を鳴らしている。それは北朝鮮が、液体燃料を使った中距離弾道ミサイル「ノドン」から固体燃料を使った次世代型ミサイルへと転換したことで、移動式発射装置からの短・中距離ミサイルにより北朝鮮から一斉射撃を受ける可能性がより一層高まっているからである。この次世代型ミサイルでは、弾頭の小型化・性能向上だけでなく、ミサイル軌道性向上、発射時間の短縮化、精度向上なども達成した。
これらのことを考えると、日本が北朝鮮の核攻撃能力を恐れるのは当然のことであり、この進化し続ける脅威に対して防衛措置を講ずる必要があることは言うまでもない。実際のところ、同盟下における米国の「核の傘」による恩恵の有無にかかわらず、日本は防衛措置を実行に移さなければならないことを自覚している。
さらに、日本にとってもう一つの問題となるのが、敵対国が戦略兵器を使って日本を攻撃してくる脅威である。北朝鮮の何倍もの通常戦力や戦略能力を保有する中国の脅威は増大し続けている。しかし日本は、近い将来に敵対国となる可能性が最も高いのは北朝鮮だと想定している。理論上、日本に核兵器を使用する敵対国として最も有力視されるのが北朝鮮であるということは確かである。
この地域の各国では忘れ去られているかもしれないが(現に韓国では忘れられている)、北朝鮮が1950年の韓国への侵略で半島制圧に失敗した最大の要因と考えているのは、米国が在日基地をベースに対応する能力を有していたことであり、日本はそのことをよく分かっている。
また日本は、米国との安全保障関係がなければ、自国が東アジア地域において孤立し弱い存在になってしまうこともよく理解している。なぜなら、長年の不満から元々日本に敵意を持っていた中国、ロシア、北朝鮮に加え、同盟関係になく敵対勢力となりうる韓国に対しても、対応しなければならない状況にあるからである。このことは朝鮮半島が日本に向かって突き出した形で存在するという北東アジアの地理的条件から見て避けられない。このような地政学的力学は太古の昔から存在し、日本、ロシア、中国、韓国の相互間の争いを助長してきたのである。
北の核能力と南の経済力を兼ね備えた統一朝鮮の誕生に日本は備えなければならない。日本にとって、この「戦力」と「敵意」の組み合わせは致命的であろう。不幸にも、朝鮮半島における二つの国家がどのような形で統一あるいは連合しようとも、日本に対する憎しみという共通認識が、両者を結束させる重要なファクターとなることは必至である。
この新朝鮮がいかなるシナリオによって誕生しようと米国は韓国の安全保障から撤退し、同盟関係に終止符を打つことが予想される。このように、米国は自らに非があるわけではない、いわば「無過失の離婚」により、これまで「核の傘」の下で保証されていた抑止力を韓国から引き揚げることになりそうだ。そして米国に代わって北朝鮮が、政治的立場と軍事力に基づき、半島全体に核の保証を提供する存在となり、現実の敵であれ、仮想の敵(国)であれ、あらゆる敵を攻撃する態勢を整えるだろう。一方、東アジアにおける軍事力の展開を引き続き維持したい米国は、日本へ後退し、日本との軍事関係を大幅に強化する道を選ぶことになるだろう。
日本にとって重大な決断
このような状況において、米国およびその同盟国である日本は、国家安全保障上の究極の決断を迫られている。日本政府は、同盟の枠組みの中であらゆる可能性、選択肢を吟味し、自らの進む道を計画しなければならない。また、日米同盟が解消された場合をも想定して計画を練らなければならないのだ。中長期的に見て、米韓安全保障関係が少なくとも現状のまま維持されるとは日本も考えていない。米国が段階的に韓国から離れ、韓国に駐留させていた戦力を順次縮小していけば、米韓安全保障同盟の終焉を予感せずにはいられない状況となろう。
これらのことから言えるのは、日本と米国は今後1年程度の期間で、別々の主権国家あるいは同盟国という関係にかかわらず、安全保障関係を巡る重要な決断をしなければならないということだ。2020年現在の状況を踏まえると、日米同盟は変わらざるを得ない状況にあるのは明らかである。つまり、日本の安全保障上の要請次第で、より高度で深化したものとなるか、より希薄なものになるかのいずれかである。
より端的に言えば、北朝鮮の持つ破壊能力の向上、朝鮮半島両国の同調傾向、そしてより力強さを増し強硬的になった中国の台頭に対して、現在の日米同盟では耐えることができないのは明らかであり、このままの形で同盟を維持しようとすれば、言うまでもなく同盟の崩壊をもたらすのである。にもかかわらず両国の安全保障当局は、「日米同盟の結束はこれまでにないほど強く、この地域のいかなる脅威にも対応していくことができるのだ」と、今後も同盟強化に努めることを誓い合い、これらの懸念を抑え込もうとしている。
このような両国政府の前向きな姿勢は、日本の安全保障の枠組みと自衛隊の体制が段階的に向上し、そのうえで米国との連携が強化されたことで、これまでは効果的に機能してきた。しかし現在、日本は新たな現実を直視しなければならないところに来ている。日本はあらゆるシナリオに対応できるよう、米国による核の保証をこれまで以上に確かで信頼できるものにしていかなくてはならないのである。
日本は、北朝鮮と、そしていずれは新朝鮮と、衝突するかもしれないという認識は持っている。時期や状況までは見通せないが、仮にこれらが発生すれば非常に凄絶な戦いとなるだろう。この場合、衝突を仕掛けるのは朝鮮側であり、戦いの初期段階で彼らはややもすれば紛争をエスカレートさせ、米国などの第三国の介入にも抵抗するだろう。
一方、中国との対立のケースでは、日本政府は事件や挑発行動が起きれば、米国の対応の有無にかかわらず、同種の手段で応戦するか、手を引くか、どちらかの立場に立たされることになる。この場合も、第三者の調停によっていったんは時間を稼げるかもしれないが、それでもこれまでの紛争のかたちとは異なる方向へと賽は投げられることになるだろう。
したがって日本を支援する米国の通常兵器による対応は、即時かつ強力でなければならない。そして通常兵器の後ろ盾として最終兵器である核による保証が揺るがないものであることが日本にとって重要なのである。
つまり日本にとって、交戦が始まったその瞬間から米国に頼ることができ、事態がエスカレートした場合には米国による抑止力が保証されるという状況がより一層必要となる。そして、この抑止力は、北朝鮮が挑発行動を取った場合、最初の交戦から数分以内に発動されることが肝要だ。
だが今日、必ずしもこれほどの確実性は担保されていない。なぜなら、目まぐるしく展開する紛争や膠着状態に対処する際、米国の通常兵器使用は、戦術的な理由から、遅延あるいは制限される可能性があるからだ。その理由として、必要箇所への戦力が足りない、米軍投入について連邦政府の決定を待たざるを得ないといった理由が挙げられる。米国の通常兵器使用が遅れるあるいは制限されると、米国の核兵器使用も遅れることになり、これらは日本およびその敵対国に「米国は日本の防衛のために核兵器を使わないのではないか」という疑念を抱かせる結果となる。
日米同盟の対応案
米国による究極の抑止力が日本に及ぶことを敵国に認識させることに加え、日本が米国の通常兵器および核による抑止力の確実性を高める唯一の方法は、日本本土への中距離核戦力(INF)システムの導入である。具体的には、米国が現在開発中の次世代システムのうち、当該地域の標的を射程圏内とする通常弾頭と核弾頭のシステムを日本に配備する必要があるということである。
これらの次世代INFシステムは、何十年にもわたり北大西洋条約機構(NATO)に貢献してきた「二重鍵」方式(dual- key arrangement)に類似したものになることが理想である。これには指揮命令構造の統合に加え、日米両国がその発動権限を持つことが必要不可欠となる。これらのシステムでは、共同計画に基づいて戦術目標・戦略目標が定められ、共同配備の質を担保するため十分な演習や訓練が行われるだろう。
このシステムを日本に恒久配備することの利点は四つある。第一に、この能力は有事の際、米国が日本と在日米軍基地を確実に守ることにつながり、日米同盟の信頼性を向上させる。INF級兵器の配備が決定されれば、INFシステムを防衛するために日米両国の通常戦力も増強されるだろう。
通常戦力の増強は、INFシステムの存在を最大限に活用して日本と当該地域を防衛する同盟の能力を高めるために不可欠である。つまり、INFシステムの配備決定は在日米軍の大規模な再編成、ならびに日本による通常兵器配備の大幅な増強を伴うことになるだろう。これらには同盟の役割・任務・戦力に関する合意の見直しが必要となるが、これは間違いなく達成可能な目標である。
第二に、日本へのINFシステム配備は、当該地域の敵対勢力に対し、いかに解釈を曲げようとしても誤解しようのない、明確なメッセージを与えることになる。中国は日本との紛争がエスカレートすれば間違いなく米国が現在よりもはるかに迅速かつ直接的に関与してくると認識するに至るだろう。将来、中国の能力は、陸・海・空・宇宙といった、国家安全保障のあらゆる次元で拡大していくだろう。したがって、日米はINFシステムに関する議論を行い、中国の軍事能力の増強度合いとその対抗策を共有する必要がある。また日米安全保障体制を改善し、中国による脅威が予測可能であり、さらにはその脅威への対応ができることを中国に示さなければならない。
中国の軍事計画は、自国に劣後すると認識する国(例:日本、台湾、ベトナム、ブルネイ)と対峙する際、自国軍にはさまざまな選択肢があることを前提としている。中国の国家戦略上の行動には、野蛮な脅迫(ボートの突撃や経済的圧力)、非軍事力による対立の演出(他国の領海に侵入するため、沿岸警備隊の船舶や航空機の存在を広範囲で示し、現状変更を試みる)、そして、中国自身が「戦争には至らない行動」とみなす軍事行動が含まれている。
日本においてせめて通常弾道型のINFシステムが存在すれば、中国がエスカレートしたとしても、各段階で中国と同等に渡り合える能力とその意欲を示すことになる。中国は、リスク・リターンを冷静に見極めて、事態を激化させるかを再考するだろう。
通常弾頭と核弾頭を搭載する日米同盟に基づくINFシステムの存在は、新朝鮮や北朝鮮の意思決定者のあらゆる疑念を消し去ることになるだろう。通常兵器あるいは核兵器で日本を攻撃すれば、それがどの国旗を掲げているかにかかわらず、攻撃側の崩壊を招くことは明白である。
このINFシステムが重要なのは、朝鮮人にとって日本が永遠の宿敵であることは今後も変わらないと見込まれるからである。多くの朝鮮人は「いくつかの要因が重なることで、米国の反撃を受けずに日本を攻撃することができる」、「日本が攻撃を受けても、米国は事態の激化を回避するだろう」と期待している。INFシステムの脅威を日本と朝鮮の海上境界線に持ち込むことは、次世代システムを核戦力としては30年の時を経て、北朝鮮の玄関口に置くことを意味する。
現在の日本が、可視化されていないがゆえに信頼性に疑問符がつく米国の抑止力に依存していることを考慮すると、このように目に見える抑止力を配置することは、現在の北朝鮮と日本の間に存在する射程距離や即応時間の差に関する問題を解消することにつながるだろう。
日本と北朝鮮の不和が解消されない中で、北朝鮮が日本に配備されたINFシステムに直面した場合、彼らは当面の間は核戦力の拡大を継続するだろう。しかし、北朝鮮は、米国の確固たる対抗能力という新たな現実を考慮せざるを得ず、また自国が危険なゼロサムゲームを追求していることを受け入れる可能性もある。そして別の方法を模索し、国や体制の存続に対する脅威を軽減するための取り組みを開始するかもしれない。結論として、北朝鮮の抑止を目的とする場合、INFシステムを日本に配備することは、日本の安全をより確実に保証しようと試みる当事者にとって、抑止力の強化にとどまらず、利点ばかりで損のない提言と言えるだろう。
第三に、日本において核弾頭を搭載可能なINFシステムを配備し運用する限り、日本が日米同盟の枠組み外で、自ら核戦力を配備するという独自路線を歩む可能性はなくなるだろう。
INFシステムの配備は、明日にでも容易にできる決断である。現在、日本が依存している米国の核による抑止力が、明確かつ物理的な形で存在し、完全に信頼しきってよいと断言できるほどリアルなものではないことを自覚することになれば、日本が決断する可能性が高くなるだろう。現在、日本はこの選択を模索することができ、実際、その決断に傾いているのではないだろうか。発動権限を共有するINFシステムは抑止力の「絶対的確実性」という条件を満たすことになる。特に、そのINFシステムに関する権限を、兵器使用に関する意思決定の権限を持つ国の指導者層が持つことになれば、そうした条件が満たされることになるだろう。
第四に、日本における日米同盟をベースとしたINFの存在は、世界的とまではいかないまでも、地域レベルでINF級のシステムを制限し封じ込めようとする動きを促すきっかけとなる可能性が高い。つまり、日本へのINF配備に関する問題が、廃棄されたINF条約に置き換わる条約と執行メカニズムを新たに創り上げる国際的な動きの中で取り上げられることになるだろう。過去にINF条約が機能不全に陥ったのは、米政府が10年以上続いたロシアの不正行為を認識したからである。ただし、当時のロシアの違反に見られる図太い態度を踏まえれば、仮に条約が延長されていたとしたら、間違いなくさらに不誠実な行為が行われていただけだろう。
当時の米露両国の安全保障当局に中国がINF条約による制約を望んでいないという事実が重くのしかかったこと、また現下においては中国の関与なしで有効なINFに関する取り決めは実現できないという点は重要である。中国がINFのような条約の締結を検討しないのは、自国を利するよう操作可能な場合を除き、国際条約の当事者になりたくないという姿勢が中国には根付いているからである。
しかし日本がINFシステムを導入すれば、個々の要因が組み合わさり、中国にINFの枠組みに対する姿勢を再考させる可能性がある。中国が直面するその要因とは、日本に配備された日米同盟に基づくINF戦力、北朝鮮の弾道ミサイルと核兵器能力および彼らの行動の不確実性、さらには朝鮮半島への中国の試みに対する朝鮮の伝統的な敵意が挙げられる。
特に日本がINFシステムのキー(発動権限)を手にすることをきっかけに、ヨーロッパとアジアに対してINFシステムを管理し制限を課す枠組みを中国が検討する可能性がある。
日韓両国がこのような枠組みに参加する場合、日韓両国に関する事項を直接取り上げる場があれば、中国はそれをINF交渉に参加する十分な理由とみなすかもしれない。回りくどい言い方かもしれないが、これまでの米露間のINFの枠組み以外に中国をINFの議論に参加させるだけの理由がない以上、中国がこれに参加する見込みはほとんどない。問題の解決手段として、意図的に問題の対象範囲を広げることで、その問題のすべて、または核心的な部分について解決を図るというやり方はよくある手法である。
最後に、日本にとってのもう一つのINFシナリオを紹介する。それは同盟による「二重鍵」方式の制御メカニズムを、日米が共同運用する弾道ミサイル潜水艦に導入する案である。これを日米が共同で出資・所有し、米海軍と海上自衛隊の乗組員により共同運用するのである。搭載されたINFシステムは「地域攻撃兵器」に分類でき、通常兵器と核兵器の両方を含むことになる。この方式を導入すれば、INFシステムの運用が海域で可能となる一方、その拠点を日本と米国の領土(グアム)に置くことができるため、陸上のみで運用するよりも抗堪性・信頼性を高めることが可能となる。
最も望ましいシナリオは、まず初めに地上型システムを日本に配備し、これを日米両国の管理下に置いて、当面のINF牽制力とすることだろう。これにより複雑な仕組みを持つ海上型戦力の構築・就役までに必要な時間を稼ぐことができる。地上型および海上型システムは共存しながらもそれぞれ個別に改良を進めるようなかたちで運用可能となるが、日米同盟にとって価値があると判断された場合は地上型を海上型に順次置き換えていくこともできるだろう。
日本の将来の可能性について、(前述の)対極にあるのが、日本が独自に核兵器を開発し、自前の核能力を持つオプションである。この場合、核兵器そのものの他に弾道ミサイル、巡航ミサイル、攻撃機、さらには海上配備型のプラットフォームといった運搬能力の両方が開発されることを意味する。「ジャパン・ウォッチャー」(日本研究の専門家)や、「日本通」と名乗る者は、この方向性について「可能性は極めて低い、あるいは不可能だ」と言うだろうが、日本の核兵器開発は合理的であるとともに、現実に起こり得るものだ。
指導者次第のところではあるが、日本は自国防衛のために必要なことを実行するだろう。それを「そのようなことはあり得ない」と考えるのは妄想に過ぎない。現在、日本は北朝鮮の核の脅威に晒され、自国が極めて危うい状況にあることを認識している。これは米国の現政権が「北朝鮮に関する主な懸念事項は、核兵器で米国を攻撃する能力を保有したこと」と暗示していることに起因している。
日本は、米国が日本のために戦ってくれるということに確信を持てていない。そしてさまざまなシナリオにおいて、米国は自国のリスクを軽減する方向に動く可能性があると見ている。日本には北朝鮮が日本を攻撃した場合においても、米国が言葉を濁して決断や行動を先延ばしにし、最終的には何もしてくれないのではないかと懸念するだけの十分な根拠がある。北朝鮮は、明日にでも日本の原子力発電所、軍事基地、または皇居を標的にする一方、米国の施設は攻撃しないという作戦をとる可能性がある。これは大げさな懸念ではない。日本が長い間目を背けてきた現実に向き合い、決断する時がいよいよ来たのである。
米国が提供する現状の安全保障に対する信頼が揺らげば、それは日本が核オプションを検討するきっかけとなり、日本はそのオプションを急いで追求しなければならないという思いを強くするだろう。それには、同盟自体、あるいは同盟の重要な構成要素を犠牲にする決断が伴うかもしれない。しかし日本の指導者は、その場合においてもこの犠牲は自国の安全保障の確保のために必要な代償だと判断するだろう。実際に、日本が信頼できる核保有国として認められれば、安全保障上のパートナーとして、米国に提供できるものが多くあるかもしれない。
米国は日本の核保有国への移行を選択し得るだろう。特に、米国が他国のために拡大抑止を担うことに疲れ切った場合はなおさらである。端的に言えば、日本は、米国との間で、米英間に類似した核のパートナー関係を構築する可能性がある。米国が米韓同盟から離脱し、その結果として、韓国から核の抑止力が消滅した場合、この決断はより現実的なものとなるだろう。特に日本が日米双方に利益をもたらす拡大抑止への相互参加を前提に、新たな核のパートナーシップを築くための協議の開始を求めた場合は、決断は容易であろう。このアジアの核をめぐる新たな力学の中では、どのようなことも起こり得るのである。
平壌からの眺め
20年の北朝鮮は、東アジアと太平洋の先にある米国を見つめながら、これまで国家の最優先事項として進めてきた戦略兵器開発においていまだ期待した成果が出ていないことに苛立ちを感じているかもしれない。しかし、小規模な挑発行動に見られる威勢の良さはさておき、北朝鮮は長期に及ぶ戦いに向けて進めてきた兵器開発におけるこれまでの成果にはそれなりの満足を感じているだろう。北朝鮮は、「戦略的抑止」の土俵で優位に立つ米国に挑戦することで、東アジア地域における米国の核に対する均衡を達成したのだから。
これは、特に三流にも満たない経済小国にとっては、決して小さな成果ではない。北朝鮮は、巧みな策略によって核兵器製造を継続し、その脅威への注目度やその地位を向上させることに成功した。北朝鮮は米国に対して、準備不足で軽率とも言える首脳レベルの協議への参加を促してきたが、米国の参加自体が自国の行動の正当性を証明するものだと見なしてきた。北朝鮮は、韓国を恫喝し続け、韓国にとって国家的屈辱とも言えるプロセスを進めてきた。また、米国と直接交渉する権利を日中両国に認めさせ、米朝の「意思決定者」が交渉に臨む傍らで、日中両国をその交渉の「観客席」へと追いやることにも成功したのである。
1950年6月、北朝鮮は「北朝鮮による侵略が本格化しても韓国を防衛しない」という米国のシグナルを額面通りに受け止め、判断を誤った。トルーマン大統領は方針を転換し、朝鮮戦争への全面介入に対する承認を国連に求め、北朝鮮軍に対する殲滅作戦を展開した。北朝鮮は、この米国主導の攻撃によって敗北し、同国の都市・産業・インフラが瓦礫と化したことで、米国の本当の力をはっきりと認識するに至った。このような現実は、今日においても北朝鮮の精神を強く支配している。
この経験により、北朝鮮は米国のみが国家と体制の存続を保証する存在だと信じて疑わない。それはいざという時に北朝鮮を一度に破壊する能力とその意思を持った唯一の国が米国と考えているからだ。また、南北朝鮮はもちろんのこと、歴史上北朝鮮との国境地帯を支配してきた中国と真っ向勝負が可能で、その意思があると見られる唯一の国が米国なのである。米国は北朝鮮に対する生殺与奪の権利を保持していると言える。仮に米朝間で安全保障体制が確立された場合、北朝鮮への影響力拡大を狙う中国は当惑するだろう。
北朝鮮を語るうえで、この国家存続をめぐる懸念に匹敵する大きな要素が生来の王朝としての欲求である。彼らは米国との関係を築くことにより、東アジアの政治構造の中で、日中両国と同等の地位を得たいと考えている。この考え方によると、下位の存在である韓国がいくら注目を集めるために北朝鮮につきまとっても、同国には韓国の相手をする時間はないのである。また、北朝鮮は中国をも軽蔑しており、北朝鮮に自国の意思や影響力を押し付ける彼らのあらゆる試みを拒否している。さらに、金政権は中国を見下すような態度をとっているが、これらは中国が国境地帯で示す存在感への拒否感を示すための計算ずくのパフォーマンスなのである。
北朝鮮による米国への働きかけは、朝鮮半島における支配力の回復を企てる中国の野心に対する明確な拒絶を示すものでもある。中国共産党指導部は、世界秩序における地位を回復し、東アジアの支配者への返り咲きを狙うという観点から北朝鮮への支配力の回復を目指す可能性があるが、北朝鮮を従属させ手懐けることの難しさも理解している。
北朝鮮にとって、ロシアはさらに考慮に及ばない存在である。北朝鮮は、ロシアから得るものがある場合を除き、ロシアを日常的に無視している。かつては米国に対抗する真の超大国であったが、今では衰退の一途をたどっているロシアは、北朝鮮からすると「半ば破綻した国家」である。ロシアは帝国の地位を剥奪され、現在では権力者が私腹を肥やす、いわゆる「泥棒政治」が横行している国だと北朝鮮は考えている。
衰退の結果、終焉が近づくロシアは中国が歴史的に領有権を主張する極東ロシア全域を中国に明け渡すことになるかもしれない。ロシアの北朝鮮に対する経済支援の能力は限られているため、ロシアは北朝鮮から得るものがない限り彼らに手を差し伸べることはないだろう。
北朝鮮にとって、日本は「のけ者」国家であり、日本人は「ソムノム」――つまり「島に住む輩」でしかない。後者は朝鮮の伝統的な誹謗中傷であり、そうした中傷は有史以来、日本に向けられ続けたものである。
ある北朝鮮人は、北京で筆者に対して「朝鮮人は皆、腹の底から日本を憎んでいる」と言ったことがある。韓国と北朝鮮ではこうした軽蔑の念が煽られることがあるが、これは両国あるいはそのどちらかがこの態度をやめることが有益だと思わない限り、改まることはないだろう。
核保有国としての北朝鮮は、米国から核武装を認められていない日本と同等以上の軍事力を所有するに至った。北朝鮮は米国による日本の非核化を、かつての敵国である日本を封じ込めるという米国の利己の表れであると考える一方で、米国が日本に課した制約自体は歓迎しているのである。
北朝鮮の考えでは、地域情勢において、日本は韓国よりはるか上位の存在であるが、経済的・軍事的・戦略的影響力を拡大させている中国と比べれば「劣った遠い親戚」のように見ている。北朝鮮は日本の影響力とその地位がロシアと同様に低下しているとの認識を持つ一方で、大国の地位を主張可能な戦略兵器を所持するロシアとは異なり、日本に北朝鮮を抑止する能力はないという違いを見出している。したがって北朝鮮は明日にでも日本に対する脅迫・嫌がらせ・挑発の行動を起こす可能性がある。
日本の存在感が低下する中、核保有国である北朝鮮は、統一後の「新朝鮮」を支配し、この地域における事実上の第三勢力となるだろう。彼らは米国との特別な安全保障関係を利用して中国と並び立ち、東アジア全域において、米国の戦略的安全保障のパートナーとして日韓両国に取って代わる可能性がある。そして中国が打つ手のない状態に追い込まれ、東アジアの他の国々が二流・三流の地位に陥落した場合には、彼らは東アジアや世界秩序の中で、本来あるべきと自らが考える地位に返り咲くだろう。これらは、決して極端な未来ではない。核兵器の増強が進む中、少なくとも北朝鮮の人々の頭にはこれまでよりも大きなビジョンが描かれているのである。
これらは、北東アジアの核の現実と、筆者の推測を組み合わせたものである。異論はあるかもしれないが、これらは筆者自身の観測のほかにも、米国・日本・韓国・中国の高官や評論家から得た情報に基づいている。また推測の際には歴史上の出来事や各国関係の影響のみならず、当事者のDNAに深く刻まれた敵対意識といった要素も考慮している。技術開発が関係国に及ぼす影響と同様、敵意や感情も潜在的要因になるのである。この分析について見解の相違があったとしても、我々が重要な意思決定の局面を迎えようとしており、今後の道筋と結果についてあらゆる可能性を探るべきという点については見解を一致させておく必要があるだろう。
優れた選択肢はないが、それでも……
東アジアの安全保障秩序に対する北朝鮮の核の脅威に対処すべく、我々に今できることは何だろうか。関係各国は、脅威が増大し続ける北朝鮮の兵器開発や、核を利用して目的の達成を目指す北朝鮮の野望に直面している。これまで述べた選択肢の中には、時間を稼ぐほか一定の平和をもたらし得るものもあるが、いずれも完全な解決策にはならない。
我々は、北朝鮮が自ら平和的に武装解除することも、交渉を通じた脅迫・譲歩・妥協によって武装解除に応じることも期待できない段階を迎えていることを認識しなければならない。北朝鮮の核兵器はその存在の中核を占め、国の存続にとって重要かつ不可欠なものである。北朝鮮の核兵器は、同国が国家的宿命、すなわち韓国の征服・朝鮮の統一を達成するために残された唯一の手段である。こうした状況下で我々がとり得る選択肢は限られているかもしれないが、一方で常に複数の選択肢が存在するはずである。
日本へのINFシステム配備は選択肢の一つだが、進むべき道は他にもあるだろう。今後の日米同盟について毅然とした態度で包括的にあらゆる可能性を検討しなければならない時が来た。このプロセスにこれ以上の停滞は許されない。まさに今日から取り掛からねばならないのだ。
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