台湾有事が勃発する可能性が高まっている。早ければ、2024年1月の台湾総統選で、蔡英文総統か台湾独立派の人物が優位に立つということがわかった時点で、中国による台湾封鎖、台湾侵攻が行われることも考えられる。中国による台湾封鎖が始まれば、一気に台湾は中国の手に落ちる可能性がある。
中国共産党が台湾侵攻を図るとしても、あくまでも短期的な地域紛争にとどめたいというのが本音であろう。米国や日本の軍事介入を避けて、本格的な戦争にまで発展しない形で台湾を取りに行きたいはずだ。ロシアがクリミア併合をほぼ無血で成し遂げたように、物理的な攻撃は最低限にとどめ、サイバー攻撃や世論操作など、いわゆる情報戦を組み合わせたハイブリッド戦争を理想としている。
中国人民解放軍がハイブリッド戦争の概念を最初に打ち出したのは、中国人民解放軍大佐の喬良と王湘穂が1999年に発表した論文『超限戦』である。そして、政治、経済、文化、思想、心理など社会を構成するあらゆる要素を兵器とするという考えが示されているこの論文を具現化した組織が、2015年12月に設立された中国人民解放軍戦略支援部隊である。
戦略支援部隊は中央軍事委員会に直属し、人民解放軍全体を支援している。中国の19年の国防白書には、「鍵となる領域において一足飛びの発展を推進し、新型の作戦戦力の加速された発展と一体的な発展を推進し、強大かつ近代化された戦略支援部隊の構築に努める」との目標を掲げている。
戦略支援部隊は、軍事宇宙作戦の責任を担う宇宙システム部と「情報作戦」の責任を担うネットワークシステム部で構成されている。ネットワークシステム部はサイバー戦、技術偵察、電子および心理戦の責任を担っており、これらの任務を同一の組織傘下におくことで、「網電一体戦」と呼ぶサイバー要素と電磁波を利用して行われる電子戦要素の統合作戦を進めているのである。
戦略支援部隊は、米国を主要標的国とみなして創設した部隊ではあるが、全世界で攻撃作戦を実施するために、その能力と作戦概念を開発しつつある。台湾有事の際には「現代の情報化された戦争において、戦場情報を把握し、それを維持するため、電子戦作戦とサイバー作戦の利用について責任を負う」とされ、「戦略支援部隊は世論に影響を及ぼし、台湾に対する政治戦および心理戦の責任を負うだろう」と米国政府は分析している(米国議会報告書「中華人民共和国に関わる軍事・安全保障上の展開 2020」)。
皇室ゴシップ、富士山噴火……
戦略支援部隊の「情報作戦」
戦略支援部隊の兵士と、その配下にあるサイバー攻撃グループ「APT40」をはじめとする民間人のハッカー集団は、平時においては、日本の高度な機密情報を狙ってハッキングを行っている。例に挙げられるのは、16年から18年まで、防衛事業部門で使用する社内サーバーに不正アクセスされ情報漏洩していたNECや、19年、20年とたびたび情報漏洩事件を起こしている三菱電機グループなどへのサイバー攻撃だ。
台湾侵攻時には、日本国内からも同時多発的な攻撃を仕掛けるため、観光客を装い入国(=上陸)してくることが予想される。彼らは数名一組で、ホテルなど宿泊施設に泊まり、持参したパソコンを使用して一斉に「情報作戦」を実行するのである。情報作戦には、フェイクニュースの流布やソーシャルメディアを駆使したプロパガンダ、企業やインフラシステムへのハッキング攻撃、悪意のあるプログラムに感染したコンピューターがネットワーク化されたボットネットを使用した「DDoS攻撃」と呼ばれるインターネット通信妨害などが含まれる。