WEDGE REPORT

2021年5月31日

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グラント F・ニューシャム

元米海兵隊大佐・日本戦略研究フォーラム上席研究員

1956年、米国バージニア州生まれ。プリンシピア大学卒業後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校法科大学院修了。米太平洋海兵隊予備役作戦参謀および情報参謀、駐日米国大使館海兵隊武官を歴任。2013年10月より現職。
 

米カリフォルニア、キャンプ・ペンドルトンでの日米共同演習の様子(2019年) (U.S MARINE CORPS/ZUMA PRESS/AFLO)

 もしも富士山が鳴動し、地震を起こし、水蒸気を噴き上げているとしたら、日本の国民も政府も危機感を抱き、噴火に備えて対策を講じるだろう。

 日本は今、国の周辺でも同じくらい深刻な脅威に直面しているが、国民が特に心配している様子はない。永田町と霞が関がわずかながら懸念しているだけのようだ。

 脅威の震源地は「北京」であり、すでにその初期微動も感じられる。

 中国共産党は、慎み深さとは無縁だ。「欲しいものを欲しい」と公然と言い放ち、それを手に入れるために行動する。その中には南シナ海、南西諸島、台湾が含まれている。支配力を確立するための中国の行動は拡大・加速をし、これまでのところかなりの成功を収めている。

 南シナ海を例にとると、中国政府はそのほぼ全域について領有権を主張し、人工島を造成し、軍事基地化するなど、組織的な防衛体制を構築した。いまや中国海軍、海警、海上民兵を常時展開している。このままでは、日本の交易、エネルギー輸送のためほとんどの船舶が通過する戦略的な海上交通路(シーレーン)を中国政府が事実上支配することになりかねない。

 尖閣諸島周辺における中国による圧力と侵入行為は、筆者の知る関係者が非公式に認めているように、海上保安庁や自衛隊を「圧倒」しかねない状況にある。そして中国にとって尖閣諸島は、南西諸島全体を手に入れる前の「前菜」にすぎないことを忘れてはならない。中国が南シナ海と尖閣諸島の双方、または片方だけでも支配するようになれば、日本にとってきわめて深刻な事態となるだろう。

6年以内に中国は動く
米軍が阻止できないケースも

 しかし、日本に迫りつつあるより大きな危機は、中国による台湾の支配だ。見識ある自衛隊幹部は長年「台湾の防衛は日本の防衛だ」と主張してきた。その理由を知りたければ、台湾が中国の支配下に置かれた場合に何が起こるかを考えてみればよい。

 それは現在、中国を封じ込めている「第一列島線」を突破されることを意味し、中国人民解放軍(PLA)が、沖縄の米軍基地も含め、南西諸島における日本の防衛体制を側面から突破することになる。そして、中国の艦船、潜水艦、航空機が日本の西方、南方、東方で(ロシアが黙認すれば北方でも)日常的に活動することになる。日本はちょうど(終戦前の)1945年のように、事実上、国を包囲される。

 PLAは台湾の基地を使用し、太平洋に自由にアクセスし、日本の海外との海上・航空輸送を制限し、さらには止めることさえもできる。また日本を東アジアから孤立させる。それは日本がインド洋とペルシャ湾に直接アクセスできなくなることを意味する。

 同様に、米国の防衛にとっても台湾はきわめて重要だ。台湾の自由を守ることができなければ、米国の威信は失墜し、アジアにおける大国としての米国の時代は終わるだろう。おそらく日本と豪州を除くアジアのほとんどの国は、可能なかぎり最良の取引をしようと中国に殺到し、米国から離れていく。そうなれば日本と豪州にも迷いが生じるだろう。南シナ海は永遠に失われ、南西諸島すべてではないにしても、おそらく尖閣諸島は失われる。

 それではここから、読者のいくつかの疑問に答えよう。

 中国は本当に本気なのだろうか?

── 本気だ。彼らは戦わずして台湾を統一するのが望ましいと考えているが、政治戦で統一できないのであれば、間違いなく軍事力に訴えるだろう。PLAはまさに台湾に全面攻撃を仕掛けるために装備し、訓練も実施している。

 中国が台湾を攻撃するのはいつか?

── 米インド太平洋軍司令官のジョン・アキリーノ海軍大将は今年3月、米連邦議会上院において、「中国の攻撃が2027年よりも前に、場合によってはそれよりもかなり前に起こる可能性がある」と語った。すべての機密情報にアクセスできるアキリーノ海軍大将がこれを公に語ったとなれば、事態は深刻だ。

中国による台湾攻撃を懸念するジョン・アキリーノ海軍大将
(TOM WILLIAMS/GETTYIMAGES)

 これまでの米国の対応は?

── 10年頃、当時米海軍太平洋艦隊で情報戦を統括する立場にあったジェームズ・ファネル大佐は、中国の脅威について警告し、当時の情勢を前提とすれば、20年代がこれまで以上に中国の攻撃の可能性が高まる「懸念すべき10年」になると明言した。この発言で大佐は米軍内部やワシントンで笑い者にされたが、大佐は正しかった。その警告がいまや共通の認識となりつつある。

 何十年にもわたって、中国が最終的にはリベラルで友好的な国となり、「台湾問題」がなくなることを望んできた米国政府も、トランプ前政権でようやく目覚めたようだ。トランプ前大統領の名誉のために言っておくと、彼は台湾への武器輸出の増加と、より高度な武器の売却を承認し、多くの政治的支援を与えた。

 バイデン政権は、トランプ政権の台湾政策を継続しているようであり、台湾の事実上の駐米大使(蕭美琴氏)に対して強い支持を表明して面会し、米台当局者の接触に関する制限の緩和を続けている。(編集部注・これまで米国は中国に配慮し台湾との交流を制限していたが、米中間の緊張の影響で台湾当局者間の非公式接触の制限緩和方針を打ち出している)

 米国は台湾をめぐる戦いで中国に対抗できるのか?

── それが大きな問題だ。支持の表明は「単なる言葉」にすぎない。また、米国が中国の攻撃から台湾を守ろうとしても、米軍は間に合わない、あるいはそもそも台湾に到達すらできない──。残念ながら中国の軍事力は、 習近平や中国共産党指導部がそう信じてもおかしくない水準にまで達している。

 東アジアの軍事バランスは変わった。米海軍が南シナ海、台湾海峡、東シナ海に派遣できる艦船1隻に対し、中国海軍は10隻配備できる。中国空軍は恐るべき勢力になりつつあり、数千発の長距離ミサイルからなる中国のロケット軍は、洋上の空母や在日米軍基地を含め米軍にとっての脅威となっている。

 中国軍は、特定のシナリオ、とりわけ中国本土周辺の戦闘では、米軍に勝利する可能性がある。台湾は中国本土からわずか約130㌔メートルしか離れていない。米国政府は台湾の重要性を理解していても、中国が台湾を攻撃した場合、成功裏に介入できない可能性がある。米国は中国に対して金融・経済上の圧力はかけられるが、直接的な軍事支援は難しい課題となるだろう。これは、中国が第二次世界大戦以降で最大・最速の軍備拡張をしている間、米国がその問題に目を背けていた結果だ。

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