Wedge SPECIAL REPORT

2021年11月22日

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山崎文明 (やまさき・ふみあき)

情報安全保障研究所首席研究員

明治大学サイバー研究所客員研究員。元会津大学特任教授。1978年、神戸大学海事科学部卒業。損害保険会社を経て大手外資系会計監査法人でシステム監査に長年従事。システム監査、情報セキュリティー、個人情報保護に関する専門家として、政府関連委員会委員を歴任。

防護手段のない海底ケーブル
切断時を想定した作戦を

 今やインターネットを含む国際通信の約99%は海底ケーブルが担っており、通信衛星による国際通信は1%にも満たない。日米間をつなぐ海底ケーブルは約9000㌔メートルだが、通信衛星を介した場合、往復で約7万2000㌔メートルかかることから、通信速度と容量で勝る海底ケーブルが主流となっている。その海底ケーブルを守る術がないのが実態である。

 海底ケーブルは、沿岸部では海流の動きが激しいことや地引き網漁などの影響を受けないよう海底に埋没させているが、深海域では全くの無防備なのである。海底ケーブルの太さも沿岸部では直径6㌢メートルだが、深海部ではわずか2㌢メートル程度のものだ。「ケーブルが切断されないように防護するためのシールドで覆えばよいのではないか」との声が聞こえてきそうだが、ケーブルの切断は通常、ミサイルや爆弾、もしくは強力な錨を用いて行われることから、事実上、防護手段はないのだ。

 海底ケーブルの切断は1994年に発効した「海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)第113条 海底電線又は海底パイプラインの損壊」によって、各国で犯罪とするよう求めている。UNCLOS第113条は、あくまでも公海上にある自国の船が海底ケーブルを切断した場合、その行為を犯罪として処罰するよう各国に求めているのみで、他国の船が公海上で故意に海底ケーブルの切断を行った場合は、規定していない。

 ちなみに、日本はUNCLOS条約の加入国であるが、いまだ第113条に基づいた立法はなされていないし、米国、トルコ、ペルー、ベネズエラなどは、UNCLOS条約に加入すらしていない。また、現時点において、わが国の海底ケーブルの防護は、民間の通信事業者に任せられており、他国の軍事活動による脅威は、全く考慮されていない。日本政府は、これまで国際海底ケーブルが切断された場合の影響や損害額などのシミュレーションなど一切してこなかったのである。

 米国防総省は、2018年の米国国家国防戦略において「モザイク戦」というコンセプトを打ち出している。「モザイク戦」とは、ネットワークが破壊されてもシステム全体の機能の低下を防ぐため、従来の軍の構成部隊を戦況に応じて柔軟に再配置できるような高次な戦法で、よりコンパクトに、低コストで運用できるというものだ。従来の戦略全域にわたる通信が確立している前提での戦いではなく、有事の際に電磁波攻撃やハッキング、そして海底ケーブルの切断など、ネットワークが利用できない事態を想定した戦いが今後ますます重要になる。

 日本も台湾有事の際のサイバーリスクを認識するとともに、海底ケーブルが切断された場合の日本国内の事態を想定しておかなければいけない。特に、自衛隊にはネットワークが利用できない事態に備えて、米軍の海兵隊のように自己完結型で自律的な作戦遂行能力を高めることを期待したい。

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■日常から国家まで 今日はあなたが狙われる
Part1 国民生活から国家までを揺さぶるサイバー空間の闇
山田敏弘(国際ジャーナリスト)
InterviEw1 コロナ感染と相似形 生活インフラを脅かすIoT攻撃
吉岡克成(横浜国立大学大学院環境情報研究院・先端科学高等研究院准教授)
coLumn1 企業を守る手段の一つ リスクに備える「サイバー保険」 編集部
Part2 主戦場となるサイバー空間 〝専守防衛〟では日本を守れない
大澤 淳(中曽根康弘世界平和研究所主任研究員)
Part3 モサド元高官からの警告 「脅威インテリジェンス」を持て
ハイム・トメル(元モサド・インテリジェンス部門トップ)
Part4 狙われる海底ケーブル 中国サイバー部隊はこう攻撃する
山崎文明(情報安全保障研究所首席研究員)
Part5 〝国家〟に狙われる日本企業 経営層の意識変革は待ったなし
川口貴久(東京海上ディーアールビジネスリスク本部主席研究員)
coLumn2 不足するサイバー人材 「総合力」で企業を守れ  編集部
InterviEw2 「公共空間化」するネット空間 国民を守るために必要な機関
中谷 昇(Zホールディングス常務執行役員GCTSO)

  
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Wedge 2021年12月号より
日常から国家まで 今日はあなたが狙われる
日常から国家まで 今日はあなたが狙われる

いまやすべての人間と国家が、サイバー攻撃の対象となっている。国境のないネット空間で、日々ハッカーたちが蠢き、さまざまな手で忍び寄る。その背後には誰がいるのか。彼らの狙いは何か。その影響はどこまで拡がるのか─。われわれが日々使うデバイスから、企業の情報・技術管理、そして国家の安全保障へ。すべてが繋がる便利な時代に、国を揺るがす脅威もまた、すべてに繋がっている。

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