2024年4月24日(水)

Wedge SPECIAL REPORT

2021年11月22日

 フェイクニュースは、直接的に中国の台湾侵攻を正当化するというよりも、皇室のゴシップや閣僚の収賄事件や自衛隊のスキャンダルなど、日本国民が有事の際のよりどころとする対象を侮辱したり、貶めたりすることで厭戦気分を高めるものが予想される。また、富士山の噴火警戒警報、水源地の毒物汚染など、社会を混乱させるあらゆるフェイクニュースが作り出されることも考えられる。

 プロパガンダは、事前に用意されたたくさんのアカウントを利用し、あらかじめ準備したツイートやメールを流すことによって行われる。それらの多くは、中国の台湾侵攻を中国の内政問題であるとする論調で、LINEやFacebook、Twitterの投稿を繰り返し行うことで世論を誘導しようとするのである。「APT40」をはじめとする日本への上陸部隊は、語学に堪能で日本語にも通じているとされており、一見するだけでは日本人のソーシャルメディアへの投稿と区別がつかないと言われている。

 さらに深刻な事態を招くのが、人民解放軍が情報作戦の要諦として「情報封鎖」を行う可能性が極めて高いということである。「情報封鎖」とは、軍事力で外部との物理的な情報交換を遮断することに加え、世論の操作や言論統制などの非軍事的手段により情報をコントロールすることを意味し、「情報支配」とも言い換えられる。

 台湾侵攻の際にも航空と海上で優勢に立つために「情報封鎖」もしくは「情報支配」が重要とされている。中国共産党は近代的戦闘空間において、情報スペクトラム(電磁波、信号、音や光など)をコントロールすることが、第三者による紛争介入に対抗する能力の必須要素であるとみなしている。とりわけサイバー作戦は、地域紛争において敵の介入を抑止または混乱させる重要な手段であり、死活的に重要な軍用および民間の結節点を攻撃目標とするとしている。

 そうした情報封鎖作戦の中心になるのが、海底ケーブルの切断である。台湾と日本、さらに米国を経由する海底ケーブルの切断により、台湾国内において国際金融やSNSなど、人々の生活を支える大多数のシステムが使用できなくなる。海底ケーブルの切断は、日本、米国、台湾などへの被害が大きい一方、中国は独自の海底ケーブルを築いており、自国への被害は軽微であるという点が厄介だ。

 台湾も中国の脅威は認識している。台湾の国防部は21年8月、中国の軍事力に関する年次報告書を、日本の国会にあたる立法院に提出している。同報告書には南西諸島や台湾を結ぶ「第一列島線」以西では、中国は台湾の通信を遮断する能力をすでに持っていると明記されている。海底ケーブルの切断による混乱は台湾国内だけにとどまらない。クラウドサービスの多くの情報基盤が米国に集中している日本にも甚大な被害をもたらすことになるのである。


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