2023年1月27日(金)

ディスインフォメーションの世紀

2021年11月30日

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桒原響子 (くわはら・きょうこ)

日本国際問題研究所研究員

1993年生まれ。大阪大学大学院国際公共政策研究科修士課程修了。外務省大臣官房戦略的対外発信拠点室外務事務官、未来工学研究所研究員などを経て、現職。京都大学レジリエンス実践ユニット特任助教などを兼務。2022〜2023年は、マクドナルド・ローリエ・インスティテュート客員研究員としてオタワで活動。近著に『なぜ日本の「正しさ」は世界に伝わらないのか 日中韓熾烈なイメージ戦』(ウェッジ)。

 SNSのみならず、伝統的メディアを通じてディスインフォメーションが拡散される場合も、世論形成に一定の効果を発揮しうるのである。一般に、世論のアジェンダ・セッティングは、さまざまな外的要因がある中で、伝統的メディアの果たす役割も大きいといわれる。情報の発信源が、名の知れた、あるいは信頼度の高い報道機関であればなおさらだ。

表現の自由や報道の自由を抑圧する可能性

ディスインフォメーションは、真実よりも遠く、速く、広範囲に拡散される傾向にある。『Science』誌によれば、嘘が真実より速く広まる理由として、情報の目新しさや受け手の感情的な反応が影響している。

 危機の際にはさらに注意が必要だ。疑心暗鬼になった人々は、よりディスインフォメーションを信じやすくなる。日本でも災害時に多くのデマが広まり、人々の行動に少なからず影響を及ぼした所以である。

 さらに、ディスインフォメーションの広がりと、それへの対策が、結果として表現の自由や報道の自由を抑圧する可能性があることについても憂慮される。ブラジルなどでは20年から法整備によってディスインフォメーションを取り締まろうとする動きも見られるが、法案の抜け穴などを政府が恣意的に利用し、結果的に市民の自由や表現の自由を制限する危険も孕んでいる。

 シンガポールでは、外国からのディスインフォメーション・キャンペーンによる内政干渉や国内世論操作を防ぐことを目的とし、この10月に「外国干渉防止法」が可決したが、ここでも政府が権限を乱用する可能性について懸念されている。

いかにディスインフォメーション対策を進めるか

 ディスインフォメーション対策には、被害者(国)側の正しい情報の発信力や迅速さ、柔軟さ、外部組織などとの連携といったきめ細やかな対応能力が求められるが、同時に表現の自由や報道の自由が保障されることが重要である。もちろん、具体策が確立されていない日本にとって、国家としてディスインフォメーション対策をとることが重要課題であることはいうまでもなく、対策の早期検討が不可欠である。

 政府が対策を検討するにあたっては、政策の透明性を確保しつつ、全体の指揮をとる組織を選定あるいは設置することをはじめ、関係府省庁間や市民社会との連携、ファクトチェック機能の拡充などの取り組みが欠かせない。

 さらに、国民一人ひとりの情報リテラシーを向上させるための教育も重要だ。ディスインフォメーションに対する最も強い抑止力は、国民一人ひとりの情報リテラシーである。

 ディスインフォメーションは生命に対する重大な脅威であることを認識し、政府および国民一人ひとりがリテラシーを向上させる努力を払うことは、ディスインフォメーションに対する国の強靭性を高めることにつながる。そのためにも政府は、国民の情報リテラシー向上のための教育や情報発信を促進する一方、オンラインプラットフォーム企業やメディアと連携をとることも重要となろう。国家安全保障会議ならびにこれを支える国家安全保障局が中心となり、全体の指揮をとることも検討されるべきだ。

 台湾海峡有事では、日本国内でもあらゆるディスインフォメーションが流布することが予想される。ディスインフォメーションの脅威は、決して他人事ではなく、明日、もしかするとこの瞬間も、我々の身に迫っていることを十分に認識し、情報に対して客観的かつ多角的な視点を日ごろから養っておくことが重要といえるのではないだろうか。

編集部からのお知らせ:広報や文化交流を通じて外国国民や世論に直接働きかける外交「パブリック・ディプロマシー」に関する、桒原響子氏による連載「世界で火花を散らすパブリック・ディプロマシーという戦い」はこちらからご覧いただけます。また、『なぜ日本の「正しさ」は世界に伝わらないのか 日中韓熾烈なイメージ戦』(ウェッジ)はこちらからお買い求めいただけます。
 
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