2024年12月15日(日)

世界で火花を散らすパブリック・ディプロマシーという戦い

2020年5月13日

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新型コロナウイルス問題について、世界中で中国への批判が高まっている(写真:新華社/アフロ)

コロナ対応で国際社会から対中批判高まる

 世界中で中国が新型コロナウイルスの初期対応を誤ったことに対する批判が高まっている。中国の新型コロナウイルス感染症への対応をめぐり、中国の初期対応が後手に回ったこと、および情報開示が十分でなかったことなどから、米国をはじめ各国において中国に対するイメージが悪化しているのだ。そうした中、中国はコロナウイルスの制圧に成功したと喧伝する一方、世界各国に医療物資や医師団を送るいわゆる「マスク外交」を展開し、自国のイメージ回復に躍起になっている。中国国民による使用が禁じられてきたSNS・Twitterを用いて中国外交部報道官が諸外国の世論に働きかけ、さらには習近平国家主席自らが各国首脳に電話攻勢をかけるなど、世界のリーダーとして振舞おうと必死である。

 しかし、中国の攻勢は空転し、むしろ世界の反発を買う結果となっている。米国が新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼称し、最近では同ウイルスが武漢ウイルス研究所から流出した疑いがあると批判したのに対し、中国側が、米軍がウイルスを武漢に持ち込んだ疑いがあると反論、相互にメディアを用いてけん制し合うという、「プロパガンダ合戦」が繰り広げられ、米国の対中世論を悪化させている。また、中国と経済的結びつきが強く中国に対する直接的な批判を避けてきた欧州や豪州、アフリカ各国までもが、中国の医療器具や医薬品に頼る一方、こうした中国からの支援に対し「感謝」を表明するよう求められたり、経済的な脅しを受けたりしていることが原因で、中国に対する不信感が高まっている。

 コロナ危機を受け、中国が世界でどのような外交戦術を展開しているのか、そしてそれがどのような結果を生んでいるのかについて詳しく見ていくこととしよう。

イメージ回復に躍起になる中国の「戦狼外交」

 新型コロナウイルスが世界中に広がる以前から、もともと、中国のパブリック・ディプロマシーはプロパガンダと呼ばれることがあった。中国共産党の中央宣伝部をはじめ、統一戦線工作部、そして外交官らによって、他国に対し世論づくりが展開されてきた。中国語や中国文化の普及活動をはじめ、多彩なメディア戦略等を用いて時には他国批判も行い、国際社会に対する情報を制限すると同時に、他国に対して脅しのメッセージを発信してきた。

 こうした「力」の概念はしばしば「シャープパワー」と呼ばれていたが、コロナウイルスをめぐり、「戦狼外交」や「最後通牒外交」といった強硬な外交が加速しているように見受けられる。習近平国家主席が20を超える各国の首脳と電話会談し、支援を表明し、協力を約束しているが、中国に対し感謝の意を表明するよう要請されている国もあるとされる。例えば、ポーランドでは、アンジェイ・ドゥダ大統領自らが習主席に電話で中国からの支援に感謝を表明せよという圧力がかけられ、またドイツでは、ドイツ当局や大企業から、中国からの支援や努力に対し感謝状を贈るよう求められたと、5月3日付のニューヨークタイムズが報じた。

 ちなみに、「戦狼外交」とは、2015年と2017年にシリーズで公開された中国のアクション映画『ウルフ・オブ・ウォー(英語表記:Wolf Warrior)』になぞらえた、過激な外交官による中国の好戦的な外交手法である。同作品は、中国人民解放軍特殊部隊「戦狼(Wolf Warrior)」の元隊員の主人公が、演習途中でアメリカ人傭兵軍団の襲撃にあい仲間を失ったことから、傭兵軍団と死闘を繰り広げる物語である。映画が大ヒットを記録した時期の前後、米中間では貿易摩擦が問題となり、両国の技術的優位性や国際社会での影響力をめぐり対立を繰り広げていたことが背景となり、中国の政府関係者や外交官が戦狼的とも攻撃的ともいえる手法で広報合戦を展開するようになったといわれている。今回のコロナウイルス対応でこの手法がより活発に使われているのだ。


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